鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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Ⅱ.「美術に関する国際交流援助」研究報告― 637 ―― 637 ―⑴ 海外派遣① 1.講演「 カッパドキア岩窟聖堂の重要性と3Dデジタル・ドキュメンテーションの  2.講演「カッパドキアにおける聖堂装飾プログラムの展開」1.2019年度助成可能性」期   間:2019年6月8日~6月21日(14日間)派 遣 国:トルコ共和国報 告 者:金沢大学 人間社会研究域 准教授  菅 原 裕 文1.東文研主催のトルコ人若手修復家向けセミナーにおける講演東文研の依頼により、2019年6月11日より15日までトルコ人若手修復家向けの研修に講師として参加しました。他にフィレンツェ国立修復研究所の講師を中心とするイタリア人の保存修復関係者が8名、途中からアンカラ大学のトルコ人教授2名が参加しました。トルコ人受講者はおよそ30名ほどでした。今回の海外派遣では、これらの講師陣とネットワークが構築できたことがもっとも意義深い収穫だと言えるでしょう。報告者自身もそうですが、本邦の西洋美術史研究者の多くはマテリアルとしての美術に接する機会が限られています。それが西洋美術を研究する者にとってある種のコンプレックスでもあります。しかしながら、今回の派遣でイタリアやバルカン半島の第一線で活躍している壁画・建築の修復家と接し、失われた技法や工法など、過去に生きた人々が常識としていた知識・経験・技術に関して蒙が啓かれた思いがします。言い換えるならば、これまでは絵画の様式や図像学、あるいは解釈にのみ傾注してきましたが、これからは別の視点から多角的に作品に接することができるように思われます。反対に、修復家にとっても報告者から得ることが多かったようです。というのも、報告者は東文研の事業が最終年度になって参加したので、これまでの講師陣には美術史研究者が一人もいなかったからです。講師陣の一人に言われたことで非常に印象的

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