鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 650 ―― 650 ―⑵会議出席①メディア・アート・ヒストリー2019 ― Media Art History 2019 - RE:SOUNDする人々》の連作は制作された。グラネ美術館で当時見ることのできた、17世紀の画家ル・ナン兄弟の《カード遊びをする人々》が着想源とされているが、セザンヌの作品には遊びに興じる人物の心の躍動が一切描かれていない。遊びに含まれる正反対の側面である沈黙と集中が、セザンヌの主題となっている。描かれた農家の一室は中庭のある建物の片隅の1階にあって、外部から隔離された、誰にも邪魔されることない静寂の場所で、カフェのようなにぎやかな場所ではなく、人目につかない場所で集中することで、セザンヌは自ら求めた静謐な古典的世界を実現できた。そこには、エクスに生きる素朴な、しかし威厳に満ちた農夫達への深い共感が表明されている。作品をそれが描かれた時と所から切り離し中性のホワイト・キューブに並べる近代以降の美術館という装置が前提としてきた〈脱文脈主義〉は、展示という〈構築主義〉作業を通して作品の新しい意味を発見し創造してきたが、本発表は、それとは反対の〈文脈主義〉を突き詰めていくことで新しいセザンヌ像が現れてくる可能性があることを指摘し、モダニズムの言説を一端、括弧に入れて、<場所>に焦点を当てた社会学的心理学的視点から作品を解釈することで失われた作品の厚みを回復する新しいセザンヌ研究の方法を提唱した。発表に対して、参加したセザンヌ研究者のみならず一般聴衆からも、概ね好意的な感想が寄せられた。期   間:2019年8月18日~8月25日(8日間)会   場:デンマーク王国、オールボー大学CREATEキャンパス報 告 者:東京藝術大学 非常勤講師  金 子 智太郎報告者は2019年8月20日から23日までデンマークのオールボーで開催された国際会議、Media Art Historyにおいて研究発表を行った。メディア・アートの動向と歴史をあつかうMedia Art Historyは、2005年にはじまり、これまで2年ごとに世界各国で開催されてきた。毎回「RE」ではじまるタイトルがつけられ、第8回となる今回のタイトルは「RE:SOUND」だった。その趣旨は次のように告知されていた。音の経験や音による表現はさまざまな芸術の歴史のなかに満ちている。しかし、20世紀やそれ以

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