― 651 ―― 651 ―前の芸術における音はこれまで主に音楽学者と、音を専門とする少数の研究者によってしか研究されてこなかった。そこで、今回のMedia Art History RE:SOUNDより広い学問領域、さまざまな文化やメディアに目を向けて、芸術における音を考察するための基盤をつくりたい。個々の研究発表はいわゆるサウンド・アートの実践や理論をめぐる議論が多かったものの、音楽史や美術史、映像史、文学史などを参照し、視野を広げていこうとする姿勢がいくつもの発表に見られた。4日間にわたるRE:SOUNDのプログラムは第1、第2、第4日が研究発表、第3日がデンマークのストルーアで開催されているアート・フェスティバル「Struer Tracks」の見学だった。研究発表はテーマごとに9つのトラック─「Resounding Media Art」「Sounding Difference」「Sound and Voice」「Art and Technology」「Sound Art Curating」「Sound within Bodies」「Return of the Sonic Real」「Archives」「General Topics」─に分けられ、200名近くの発表者が参加した。さらに開催前日にオープニング・トーク、開催中には5回のキーノート・スピーチ─Jamie Allen、Marie Højlund、Samson Young、Salomé Voegelin、Christoph Cox─、ディスカッション「Conversation with Sound Art Curators」(登壇者はBarbara London、Arnau Horta、Morten Søndergaard、Salomé Voegelin)、作品展示、スクリーニング、パフォーマンス、博士課程学生のためのサマーキャンプ、作家によるワークショップなども設けられた。1日のスケジュールはキーノート・スピーチにはじまり、6つの会場での研究発表セッションが午前1回、午後3回くり返された。ひとつのセッションの発表者は2-3名で、セッションごとのタイトルもつけられた。例えば、報告者の発表は「Track 8 - Archives」、セッションは「Session 8.5 - Archive Practices Ⅲ」だった。発表者は世界各国から集まり、理論を専門とする研究者だけでなく、作家として実践を行なう研究者や、キュレーター、ライターなども多かった。このことはこれまでのMedia Art Historyには見られなかったようで、今回のテーマの特色と言えそうだった。「サウンド・スタディーズ」と呼ばれる学問領域と同じように、芸術における音をめぐる研究はいまだ学際的であり、理論家と実践家が入り交じっている。日本からの参加者は馬定延と城一裕、他のアジア諸国からの参加者も少なくなかった。とはいえ、芸術における音をめぐる、非西洋圏の国々のさまざまな表現領域の過去の実践をたどるような歴史研究はまだ多くないと感じた。5名のキーノート・スピーチのうち、2名はいわゆる「パフォーマティブ」なスピーチだった。Samson Youngはスピーチ「3 Cases of Echoic Mimicry (Or, 3 Attempts at Hearing Outside of My Own F@#*&g Head)」においてマスクをかぶって登壇し、香港
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