― 654 ―― 654 ―は特筆すべきである。国連の「持続可能な開発目標SDGs」をプロモートする立場にある国際機関としてゼロウエーストチェックリストを作成し、無駄のない、インクルーシブな開催を計画段階からイクロムのプロジェクトマネジャーであるホセ・ペデルソリ氏から促された。デジタル教育を推奨するのもその一環で、配布物は電子データで配信し、ごみは会期中分別し計量した。会期中に配布したプリント類は全体で30枚程度であったことはこのような指針が運営や参加者の意識を変革につながることを示すものであった。佐賀大学で開催することになった経緯は、2016年にイクロムのプロジェクトマネジャーであるカトリナ・シミラ氏(当時)を佐賀大学に招聘して講演会を開催したことにある。シミラ氏は学部生と教員に対していくつかのエクササイズを実施し、イクロムの教育法の一端を知る機会となった。セミナーの開催はイクロムから佐賀大学に打診があったもので、その理由の一つに有田キャンパスの存在がある。佐賀大学芸術地域デザイン学部は2016年に設置された新しい学部で、有田町の佐賀県窯業大学校を大学に統合し、有田キャンパスを有している。有田町は日本磁器発祥の地として400年の歴史を有し、17世紀半ばに輸出されたいわゆる柿右衛門様式の陶磁器は西洋陶磁に大きな影響を与えた。町内では原料を産出した泉山磁石場や窯後の史跡が遺され、窯元や卸問屋が軒を連ねる歴史的町並みが保存され、伝統的な手技から工業生産まで磁器生産の技術が今も息づいており、国際レベルの陶磁研究家を有する九州陶磁文化館が学術的な側面を支える「文化財のコンパクトシティー」という恵まれた環境がある。佐賀大学のキャンパスを拠点に、有田町をフィールドに、国際機関のセミナーを開催する場所として有田はふさわしい条件を備えている。今回のセミナーではイクロムが連携しているカナダの通信制大学のアサバスカ大学が共催している。イクロムはロングディスタンスラーニングのプログラムの開発に力を入れており、有田での開催にあたりデジタル教育の側面を充実させる目的でプログラムに参加し、カナダからシャブナム・イナルー講師が加わった。セミナーの参加者はイクロムのウエブサイトで公募し、応募者の経歴と出身国とイクロムとの関係を考慮して16か国から16名が選考された。主催国として佐賀県の学芸員3名と佐賀大学の海外特別研究員1名が加わり、運営として4か国から講師5名と補助として佐賀大学の大学院生2名、学部生4名、合計21か国、31名が携わった。佐賀での開催にあたり佐賀県、有田町、嬉野町へ協力を依頼し、佐賀県観光協会、佐賀県文化財課、佐賀県九州陶磁文化館、有田町文化財課、有田町民俗資料館、有田町食生活改善推進協議会、嬉野町観光課との連携が実った。
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