鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
673/688

― 660 ―― 660 ―3.基調講演とプレナリー・セッション9月2~4日に行われた3つの基調講演と4つのプレナリー・セッション(全体会合)は、大会テーマに沿った内容でありながらも、明らかに従来のICOM大会とは異なるものであったと思われる。建築家の隈研吾氏は、新国立競技場をはじめとする自らの建築作品を紹介しつつ、日本文化の多様性を強調した。また、写真家のセバスチャン・サルガド(Sebastião Salgado)氏は、アマゾンの熱帯雨林の破壊が進んでいることについて警鐘を鳴らし、自らの写真を紹介しつつ、豊かな未来を創出するために行動を起こすことの必要性を訴えた。そして、現代アーティストの蔡國強氏は、ミュージアムの枠組みの中でも社会課題や新たな気づきを感動とともに届けることができるという、まさに博物館の新たな役割を示唆した。いずれもわずか30分程度の講演ではあったが、世界中の博物館関係者に、気づきやインスピレーションを与えてくれたという意味では、効果的であったと思われる。そしてプレナリー・セッションでは、こうした社会的背景を踏まえた博物館定義の見直しや持続可能性、災害対策、さらにアジア美術をテーマとし、洋の東西を問わず、平和で持続可能なよりよい未来の構築に向けて美術館が社会的な役割を果たすことの必要性に多くの議論が費やされた。午後に開催されたパネルディスカッションも、デコロナイゼーションやマンガ、そして博物館と地域開発に関する議論が展開され、より幅広い観点からの意見交換が行われたのではないかと思う。4.博物館定義の見直し前述のとおり、ICOM京都大会では、「Museum」定義の見直しが行われることが期待されていた。ICOMは、2017年1月にMDPP(博物館の定義、見通しと可能性に関する特別委員会)を設置して検討を行い、新たな定義案を2019年7月にICOMホームページ上で公開した。大会でも9月3日のプレナリー・セッションで議論を行い、引き続き午後も3時間以上にわたってラウンドテーブル形式の討論が展開されたが、9月7日の臨時総会では3時間を超す議論の末、もう少し時間をかけて再検討すべきとの結論に達した。2019年12月の執行役員会議で、MDPP2と呼ばれる特別委員会において改めて検討を行い、各国内・国際委員会の意見を聴取した上で、2021年6月にパリで開催される臨時総会で採決を行うスケジュールが示されている。MDPPのジェッテ・サンダール(Jette Sandahl)委員長は、「博物館が世界規模で活動を行う際に、多様な世界観や慣習等に敬意と配慮を持つべき」であり、「地球規模、国内、地域、地方レベルでの権力と富に関わる、根深い社会の不平等や非対称という

元のページ  ../index.html#673

このブックを見る