― 661 ―― 661 ―存在を、危惧の念を持って認識されるべき」と述べているが、そのこと自体に異を唱える人はいないであろう。この新たな定義案が提示されたのは、大会6週間前のことで、各委員会で議論する時間が十分になかったという事情はあったにせよ、各国、各博物館は、この新たな定義案で示された理想とする博物館活動を本当に行うことができるのか、と当惑したのではないかとも考えられる。ICOMの職業倫理規程では「博物館は、陳列や展覧会において提示する情報には十分な根拠があり、正確であり、それが象徴する団体や信仰に対して適切な配慮がなされていることを保証すべきである」としていながらも、現実には国公立博物館であっても政治的意図をもって展示がなされている例は多数存在し、ユネスコの「世界の記憶(Memory of the World)」の登録の政治利用をめぐって、議論が紛糾しているのは周知の事実である。日本の博物館界は、民主化を促し、包摂的で、様々な声に耳を傾ける(Democratising, Inclusive and Polyphonic)機関として、社会正義(Social Justice)に貢献するために何ができるのだろうか。日本博物館協会としても、改めてこの新たな博物館定義を考えていく必要があるだろう。こうした博物館をめぐる国際的な議論を踏まえ、我が国では2019年11月に文化審議会に博物館部会が発足した。同部会では、「博物館の制度と運営に関する幅広い課題は、整理しながら、一定の期間をかけて検討」することとされている。ICOMにおける議論も踏まえつつ、日本の博物館法の改正を本格的に議論することになろう。もちろんその際は、2015年のユネスコ博物館勧告や2017年に日本博物館協会が取りまとめた「博物館登録制度の在り方に関する調査研究」報告書を視野に入れた検討が行われることが望ましい。日本博物館協会としても、こうした動きを注視し、必要な提言や声明を出すことによって総合的な博物館の専門集団としての役割を果たす必要がある。5.大会決議人類共通の宝である文化資源を守り、次世代に引き継ぐとともに、現代に生きる人々のために活用するため、“Museums as Cultural Hubs(文化をつなぐミュージアム)” の概念が重要であることを謳ったICOM京都大会のテーマは、大会が終わったら消え去ってしまうのではなく、継続的に議論していくことが求められる。こうした観点から、ICOM日本委員会では、このテーマを引き続きICOM全体で重視していくため、「Commitment to the Concept “Museums as Cultural Hubs”」を大会決議案として提案し、最終日のICOM総会で採択された。
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