鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 662 ―― 662 ―また、ICOMの議論はともすれば欧米主体になりがちであるため、組織委員会では、当初からアジアの視点からの議論の重要性を主張してきた。プレナリー・セッションで「世界のアジア美術とミュージアム」をテーマの一つとしたのもそのためである。このセッションでは、日本美術を含むアジア美術至上主義を主張したのではなく、多様性(diversity)の視点を提言することを目的とした。すなわち、学芸員が自らの文化や環境に基づいて作る展示に対して、それを鑑賞する来館者は多様である。現に昨今では国立博物館の来館者は3割以上が外国人であり、いわゆる伝統的な文化を体感していない児童生徒も多い。博物館の展示は、一方的に自らの文化や価値観を押し付けるのではなく、お互いの文化を認め合う多様性の視点もまた重要であり、そのためにも各国の歴史を踏まえつつ、欧米の美術だけでなくアジアやアフリカ、イスラムの美術などについても議論する必要性を唱えたのであった。ICOM日本委員会では、ICOMがアジアの各地域の自主性と特殊性、多様性を尊重するとともに、アジアの博物館との相互理解の促進に努めることを大会決議案として提案し、「Commitment to the Integration of Asia into the ICOM Community」が同じく総会で採択された。今後、日本をはじめアジア諸国がどれだけICOMコミュニティにおいてイニシアティブを発揮できるか世界中が注目していると言っていい。

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