鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 664 ―― 664 ―(2)ボストン美術館所蔵絵巻群の特色象とすることが決定された。また、調査の順序については、収蔵庫の複数個所に分かれている絵巻を、棚ごとに調査する方針となった。調書に記載する調査項目は、所蔵番号・作品名・外題・内題・表紙・見返し・料紙・軸・絵の技法と状態・伝来・寄附者・巻数・法量・書写者・時代・収納・評価・銘文等、そして備考である。ボストン美術館の絵巻について、所蔵番号が付番されているものとそうでないものがあったため、便宜上、調査順に(1)から(166)までの通番を巻ごとに付した。また、絵画の一部とともに、外題や奥書などの文字資料についても簡易な撮影を実施した。調査最終日の9月27日(金)の午後には、館内の職員およびボストン近郊の日本美術史研究者が集まり、今回の調査成果に関して髙岸が口頭で報告を行い、現地への学術的還元を行った。ボストン美術館所蔵絵巻の最大の特色は、平安から近世末にいたる作例が網羅的に収集され、縁起・高僧伝・物語・経説など各ジャンルを広くカバーしている点にある。これは、近世大名家や近代茶人のコレクションを基盤とする日本の美術館における絵巻コレクションと大きく異なる。絵巻の評価は、一般的に平安末期を最高のものとし、鎌倉から室町にかけて徐々に価値が下がるとされ、近世のものは無視されがちである。また、原本に対する高評価に対して、転写本や粉本の評価は著しく低い。ボストン美術館の絵巻コレクションはこうした価値観から自由であり、原本や写しにこだわることなく、時代やジャンルを超えて網羅的に収集されている点に特徴がある。以下では、今回の調査で確認された絵巻群の特徴について、原本の成立年代に従って述べる。平安末期から鎌倉初期は、後白河上皇を中心とする絵巻制作と享受のピークがあった。同館の重要作例である「吉備大臣入唐絵巻」は、当時の宮廷絵師・常磐光長様式を示す原本である。これを写した「吉備大臣入唐絵巻模本」も確認された。このほか、写しが収蔵されるものに、「伴大納言絵巻模本」「年中行事絵巻模本」「信貴山縁起絵巻模本」「辟邪絵・地獄草紙模本」「病草紙模本」「鳥獣戯画模本」などがある。このうち、「年中行事絵巻模本」は、本奥書に十七世紀に住吉如慶・具慶・広守らによる転写本とあり、箱蓋には、桑名藩・松平定信所蔵と記され、外題は定信筆とある。明治七年に桑名松平家から町田久成が譲り受け、さらに明治九年に蜷川式胤が譲られた

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