― 666 ―― 666 ―「七十一番職人歌合絵巻模本」、狩野元信が原本を描いた「釈迦堂縁起絵巻模本」「酒顛童子絵巻模本」、南都絵所の琳賢が原本を描いた「道成寺縁起絵巻模本」などが挙げられる。また、「勝絵模本」「小柴垣草紙絵巻模本」「放屁合戦絵巻模本」は、中世のいわゆる「おこ絵」の一種である。(3)今後の予定江戸時代に原本が成立した作例としては「太平記絵巻模本」である。同館の模本は、蜷川式胤が明治二年に東京で得たものであり、埼玉県立歴史と民俗の博物館・歴博・ニューヨークパブリックライブラリー(NYPL)スペンサーコレクションに所蔵される伝海北友雪筆本を祖本とする白描の写しである。近世末から近代にかけての時期、絵師の工房で保管されていた絵巻の粉本は市場に流出し、蜷川らはこうした作例を積極的に収集したものとみられる。また、フェノロサらによる日本美術の蒐集過程において、新たに写しが制作されるケースもあったことがわかる。ボストン美術館における絵巻の収蔵過程や収蔵方針については、同館所蔵の文献の精査も含めてさらに考察を深める必要があるが、現時点における所蔵品の全貌が確認された意義は少なくない。フェノロサ・ビゲロー・岡倉天心らによるボストン美術館の日本美術コレクション形成期は、中近世と続く絵巻制作の終焉にあたるとともに、日本美術史という枠組みが形成されていく時期にもあたる。そのなかにあって、絵巻そのものの展示価値、研究価値を彼らがどう評価し、それがボストンの地でどう受け入れられたのかは、興味深い課題である。こうした基盤が明らかになれば、1930年代初めに「吉備大臣入唐絵巻」を同館が購入した動機についても、より明確になるにちがいない。現在、既刊の第1次・第2次調査の図録掲載作品と併せ、第3次調査としてすでに完了している南画、円山四条派等のデータと、今回調査した絵巻とを含めて、ボストン美術館所蔵日本美術作品の総目録の刊行を予定している。総目録の刊行によって、日本のみならず、海外における日本美術史研究や、展覧会開催などの利便性が飛躍的に向上することが期待される。
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