鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
80/688

― 68 ―― 68 ―2018年)に併せて調査を進め、実見した作品を中心にデータベースを作成してきたが、展覧会に出陳されない倣古図は、その所在が明らかでもほとんどが未調査であった。また、在外作品は、予算の問題から調査の対象外としていた。本調査研究では、まず、これらの作品の調査を行い、図様の確認作業を進めた。調査と併行して、美術全集、所蔵品目録等の図版を参照し、江戸狩野派による倣古図の発掘を試みた。また、目録等のリストの情報から、倣古図の図様が描かれていると推定される作品を拾い出した。本作業で参照した文献はおよそ8730冊に及び、長らく所在不明とされてきた(注7)、現在知られる探幽の倣古図の有年紀作品で最も古い「倣古画図巻(流書巻物)」が、現在、宮崎県立美術館の所蔵作品であることが判明するなどの発見があった。本作業では、福岡県立美術館所蔵の尾形家絵画資料や東京藝術大学所蔵の江戸狩野派模本を掲載する目録(注8)から、倣古図と関係のある可能性が高い模本の選定なども行った。また、以前のデータベースでは、雑画帖や模本の重要作の中に未入力の作品が幾つかあり、本調査研究では、これらの作品の情報も収集し、データベースに入力した。以上の結果、本調査研究を通じ、データベースには、目標を大きく上回る2648図の情報を入力できた。2 本調査研究の実施内容筆者は、「徳川の平和」展(静岡県立美術館 2016年)において江戸狩野派の倣古図を集め、これらの作品について分析した(注1『徳川の平和』図録論文を参照)。その際、これらの作品を中心に、江戸狩野派の倣古図について、データベースに情報の入力を開始した。論文執筆時点のデータの入力数は1390図であったが、その後、本調査研究開始時点で約1600図まで入力を進めていた。本調査研究では、約400図の情報を集め、約2000図までデータを入力することを目標とした。これまで、筆者が担当した「徳川の平和」展、「幕末狩野派展」(静岡県立美術館3 データベースについて本調査研究において各作品の情報を入力するデータベースは、既存のものを発展させる形で整備した。既存のデータベースは、個々の作品情報を入力した各エクセル表と、それらを統合したエクセル表から構成されていたが、本調査研究においては、以下の作業によって、データベースの大幅な改良を行った。新しいデータベースでは、狩野探幽「学古図帖」(個人蔵)や狩野安信ほか「名画集」(静岡県立美術館)など、筆者が重要作と考えてきた作品を中心とする分類を一旦解消し、まず、各作品の個別の詳細な情報を入力した「下」階層のデータを整備し

元のページ  ../index.html#80

このブックを見る