鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 70 ―― 70 ―・作品の発見=第9図「遊徐崇嗣風朝顔遊蝶図」を検索項目に加えると、同図様を描いた「探8」=狩野派「江戸御城御手鑑」(東京藝術大学)の「遊徐崇嗣風朝顔遊蝶図」、「探9」=山中幸勝「探幽原本学古図帖模本」(福岡県立美術館)の「徐崇嗣朝顔遊蝶図」、「名3」=狩野安信ほか「雑画帖」(ハーバード大学美術館)の狩野益信「朝顔に蝶図」(図様反転)がヒットする。この入力作業のために本調査研究における多くの時間を費やしたが、これによって、データベース内の同図様が瞬時に判明し、各図様の伝播の様相を具体的に分析することが可能なデータベースが完成した。4 成果報告以下においては、調査で得た新知見など、データベース作成に伴う成果を報告する。本調査を通じ、数点の倣古図を新たに見出した。新出作品のうち、狩野探幽「倣古瀟湘八景図巻」(個人蔵)〔図1〕は、江戸狩野派の倣古図様式が確立する前の貴重な作例である。「倣古瀟湘八景図巻」や、倣古図と判明した尾形探香「探幽原本 倣古瀟湘八景図巻 模本」(福岡県立美術館)などは、探幽の倣古図がこれまで考えられていたよりも多様に展開していたことを示唆する作品と言えよう。また、狩野探信守道ほか「莫宋元画冊頁」(ボストン美術館)は、幕末狩野派の古典学習の実態を示す重要作で、幕末狩野派の倣古図様式の展開を考察する際の核となる作品である。狩野惟信「和漢名画帖」(ボストン美術館)は、17世紀江戸狩野派の雑画帖と倣古図それぞれの図様、表現を継承しており、18世紀江戸狩野派の倣古図、雑画帖の展開を考えるうえで重要な作品である。今後、これらの作品を紹介する論考を発表し、江戸狩野派の倣古図様式の展開をより一層明らかにしたい。・調査作品の全図様の把握本調査では、実見した作品の全図様を確認した。倣古図や雑画巻・雑画帖、模本は、全図様が図版で紹介されている作品がほとんど無いため、調査によって図様を確認することで、どのような作品か判明する場合が多い。例えば、全図様が未紹介の狩野泰山院貞信「和漢古画貼交屏風」(ボストン美術館)には、管見の限り、倣古図に用いられた事例がない図様が数多く見出され、倣古図様式の展開を考えるうえで貴重な発見があった。本調査では貞信作品を3点実見したが、栄信の倣古図を模した図が数多く、栄信の倣古図様式が模写によって江戸狩野派内で普及したことを示唆する点で興味深い作品であった。また、江戸狩野派の倣古図様式の基盤となった「学古図帖」の図様を用いた複数の作品の全図様を把握したことで、後世における「学古図帖」の図

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