― 71 ―― 71 ―様の展開をうかがい知ることができた。朽木綱貞「学古帖」(福知山市郷土資料館)〔図2〕は、「学古図帖」の図様を基にすることが知られていたが(注9)、調査によって、狩野常信「和漢流書手鑑」(個人蔵)の図様も数多く用いていることが判明した。「和漢流書手鑑」もまた「学古図帖」との関連が深い(注10)ことを勘案すると、探幽の別の規範となる倣古図作品が存在し、その図様が「学古図帖」とともに常信に継承され、規範として整理された図様が綱貞「学古帖」にも受け継がれた可能性は高い。綱貞「学古帖」は、江戸時代中期の倣古図における規範図様の展開を考えるうえで重要な作品と言えよう。・調査作品の様式的特徴の確認本調査では、実見した作品の様式的特徴を確認したことで、江戸狩野派の倣古図様式の展開を考察するうえで重要な情報を数多く得た。例えば、探幽「倣古画図巻(流書巻物)」を調査し、探幽の早期の倣古図様式が周辺作に大きな影響を与えたことが明らかになった。また、狩野常信「流書手鑑」(メトロポリタン美術館)や狩野洞春美信「学古図巻」(武蔵野美術大学美術資料図書館)には「学古図帖」の図様が用いられているが、両作品の表現には異なる点が数多く認められた。先述のように、綱貞「学古帖」も「学古図帖」の図様を用いた作品だが、その表現には惟信作品との共通点が見受けられ、「学古図帖」の様式が、常信や惟信ら、栄信以前の倣古図の展開を規定したことをうかがい知ることができた。さらには、実見した作品同士の表現の共通点も確認し、倣古図や雑画帖における様式展開を考察する手がかりを得た。筆者は、先述の安信ほか「雑画帖」(ハーバード大学美術館)と同画家による合作の「花鳥人物図画帖」(嬉遊会コレクション)、「名画集」(静岡県立美術館)が、元来一具の作品として制作されたという仮説を提示していたが(注11)、「雑画帖」の調査によって、3つの作品に、各画家の画風だけでなく、絹の質感、金泥や絵具などにも共通点を確認した。また、「雑画帖」の表装の金具に葵の御紋があり、この金具が「名画集」のそれと同工であることが判明した。「漢」の画題を描く「雑画帖」(60図)と「花鳥人物図画帖」(20図)が当初は一つの画帖として表装され、「雑画帖」や「和」の画題を集めた「名画集」(80図)と表装の金具が異なる「花鳥人物図画帖」は、「雑画帖」から別れた後に表装し直されたことは、ほぼ間違いなかろう。5 今後の課題本調査研究にかかるデータベース入力作業は、筆者の予想を超える膨大な時間を要
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