鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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― 72 ―― 72 ―した。今回の作業では、作品を発掘する一方で、検索項目を整理し、データ入力と検索を実践し、課題が発見される度に入力内容の修正を行った。その過程で管理番号を変更するなどの必要も生じ、情報量が飛躍的に増加したデータベースの各項目の入力、修正には多大な労力を要した。画題の博捜作業は十分でなく、時間切れとなり、「花鳥図」などの曖昧な画題として登録した図は多い。現在のデータベースでは、関連する画像の有無の検索が難しい場合もある。入力ミスなどの細かい確認作業も十分とは言えない。今後、メンテナンス作業を継続的に行っていかねばなるまい。今後の最大の課題としては、データベースに入力する作品を選定する基準の設定と、それに伴う検索項目の改定が挙げられる。現在のデータベースでは、雑画巻・雑画帖や模本は倣古図と関連のある図様を含む作品を入力対象としているが、その範囲の決定は難しい。〈雑画巻・雑画帖〉というジャンル自体の特徴を考察するためには、〈倣古図〉と関連の希薄な作品も入力対象としなければならないが、「花鳥図」などの一般的な画題が多い雑画巻や雑画帖について、入力対象となる作品の範囲を広げすぎると、データベースの検索機能は低下する。模本に関しては、伝存する膨大な作品の中からどの程度倣古図との関連で作品を選び出し、データベースに入力するのかという問題が大きくなりつつある。模本は倣古図の図様を一部含む作品が数多あり、入力対象とするか否かの線引きが難しい作品も多い。分析上有用な情報が少ないならば、闇雲に入力点数を増やすと、データベースは十分に機能しなくなるだろう。また、現在のデータベースは画題や倣った画家名の比較分析を重視して作成しているため、その他の情報を大量に入力すると、共通する情報の検索が困難になることが予想される。例えば、模本は入力すべき情報が豊富で、倣古図や雑画巻、雑画帖との検索項目の統一には課題が多い。検索項目を細分化しすぎると、関連の深い作品同士の情報は分断され、その関係を見落とす可能性は高くなる。現在、模本情報の詳細な入力には、ひとまず「下」階層における備考欄を活用しているが、今後、附帯情報の多い模本情報の入力に伴う諸問題に対処する必要がある。また、倣った画家名のない作品を、倣古図とみなすか雑画巻・雑画帖とみなすか、判断に迷う事例があり、これらの作品の扱いは再考の余地がある。今後、入力作品がより一層増加するならば、管理する階層も、統合データ(「上」階層)と各作品の詳細なデータ(「下」階層)だけではなく、〈倣古図〉〈雑画巻・雑画帖〉あるいは〈画巻〉〈画帖〉などの分類で「中」階層を作成し、倣古図、雑画巻・雑画帖の中間的な特徴を有する作品を双方に入力して分析する必要があるのかもしれない。各ジャンルの成立と展開についての問題が明確化された段階で、「中」階層の構築を検討することが

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