― 73 ―― 73 ―可能になろう。上述のように、データベースに入力する作品は精査しなければならないが、その一方で、分析の精度向上のためにはさらなる作品の発掘が必要であるし、本調査で実見できなかった重要作もあり、その図様の解明は喫緊の課題である。また、18世紀後半から19世紀の倣古図は直模作品と密接な関係にあり、例えば狩野惟信「徽宗原本 水仙鶉図」(個人蔵)や狩野惟信「(倣夏珪)山水図」(ハーバード大学美術館)のような、画帖や画巻に描かれる倣古図の図様を一幅に仕立てた直模作品や倣古図について、その情報をデータベースにどのように入力するのかという問題も残る。此度、データベースに真筆ではない作品も入力したことで、図様の伝播や〈倣古図〉、〈雑画巻・雑画帖〉それぞれの展開がより具体的に考察できるようになった反面、データベースの使用者が検索結果を分析する際、この点に十分に注意する必要が生じた。例えば、Aという作品が17世紀の画家によって制作されたという伝承があっても、実際の制作が18世紀に下る場合、分析者がこの点を把握していないと、Aがその画家の典型的な図様を含む事例では、画家が同図様を繰り返し描いたという、あるいは、17世紀には知られていない図様がAに紛れ込んでいる事例では、Aはそれが17世紀に描かれた貴重な作例であるという、誤った解釈をしかねない。こういった誤解釈は、近年、江戸絵画の新出作品を紹介する論文においてしばしば見受けられ、昨今深刻化する真贋を巡る問題の一つと言える。本データベースを利用する前提として、データの先にある作品の特徴を把握する必要が、より一層増したことを肝に銘じたい。本データベースの作成作業に終わりはなく、その機能向上を目指し、的確に運用するには、作品を発掘し、各ジャンルの作品が持つ固有の特徴や様式展開を把握するために必要な情報が何かを考察し、それに合わせて入力と修正を繰り返すしかない。だが、それに伴う膨大な作業を一人で続けることには限界がある。江戸狩野派の〈倣古図〉研究を発展させるには、今後、本データベース運用の意義を主張し、資金、人材などを募り、データベースの共有と公開を目指さねばならない。現在のデータベースは、筆者というフィルターを通して整理された情報が集約されたもので、筆者の考えを反映して作成されている。データベースの情報を多くの研究者と共有し、活用するには、複数の人間による改良を経て、データベースの汎用性を高めねばなるまい。本調査研究によって、江戸狩野派の〈倣古図〉の成立と展開を追うための基盤作りは格段に進んだ。これからは、その成果を発表しつつ、データベースの公開に向け、上述の課題を踏まえ、研究を進めていきたい。
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