鹿島美術研究 年報第37号別冊(2020)
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⑻Lucian, Lucian in eight volumes, A. M. Harmon (trans.), 8 vols., The Loeb Classical Library, Cambridge注⑴C. C. Malvasia, Felsina Pittrice, vite deʼ pittori bolognesi, Bologna, 1678 [re-ed. 1841], vol. 1, pp. 329-330.⑵作品の略歴についてはリーギの報告に詳しい。R. E. Righi, “LʼErcole di Lodovico Carracci già nel⑶2020年2月の現地調査に当たっては、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館研究員のエミリー・ナイト氏にご協力いただいた。記して感謝申し上げる。1973, p. 65.80-81.1972, pp. 119-142; D. Lucidi, Alfonso Lombardi e il Salvator Mundi, Firenze, 2018.Palazzo Grassi”, Strenna storica bolognese, vol. 5, 1955, pp. 103-109.⑷C. M. Kauffmann, Victoria and Albert Museum: Catalogue of Foreign Paintings, I, Before 1800, London,⑸O. Kurz, “A Forgotten Masterpiece by Lodovico Carracci”, The Burlington Magazine, vol. 70, 1937, pp.⑹Malvasia, loc. cit.⑺L. D. Ettlinger, “Hercules Florentinus”, Mitteilungen des Kunsthistorischen Institutes in Florenz, vol. 16,Mass., London, 1979.⑼M. M. Phillips (trans.), The ʻAdagesʼ of Erasmus: a study with translations, Cambridge, 1964, p. 192.⑽エラスムスとアルチャーティの交流がいつごろから始まったかは不明だが、1522年から1531年にかけて書簡が残されている。P. S. Allen, Opus Epistolarum: Des. Erasmi Roterodami, Oxford, 1906-58. 両者の交流とヘラクレスのエンブレムについては以下を参照。V. W. Callahan, “The Erasmus-Hercules Equation in the Emblems of Alciati”, in K-L Selig, W. S. Heckscher (eds.), The verbal and thevisual: essays in honor of William Sebastian Heckscher [Kindle DX edition], Retrieved from Amazon.com, New York, 1990, pp. 41-53.⑾ A. Alciato, Emblemata... Les Emblemes, Paris, 1584, CXXXVII: Duodecim certamina Herculis.― 83 ―― 83 ―が培った造形イディオムをローマに持ち込むというだけでなく、「カラッチ」という自らが背負った看板を賭けた試みだったのであろう。代々職人の一族であるカラッチは、時に職人や地域の労働者に対してもそのまなざしを注いだ。働く市井の人々を捉えたアンニーバレの素描に基づく版画集『ボローニャの諸芸』には、叔父カルロの同業である「古着商人(regattiere)」も登場する〔図10〕(注22)。ルドヴィコはヘラクレスの功業譚という神話の枠組みを借りながら、職人である叔父を「思考する人間」の姿として表そうとした。それは、デューラーの版画を一つの造形モデルとする極めて近代的な人間像であり、中世の手工業の職人が知識を備えた存在として、社会の中に地位を獲得してゆくルネサンス的な時代動向とも呼応している(注23)。本作は、サン・ペトロニオ聖堂ヴォールト案をめぐる老年の叔父の仕事に対する讃美であると同時に、自分たちの職人としてのルーツを高らかに表明した「カラッチ」の記念碑でもあったのである。

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