鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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龍源寺本について龍源寺本は、縦130.4cm、横108.9cmの1枚絹で、やや正方形に近い画面の作例である〔図7〕。画面中央に蓮台を枕にして、両腕を体側につける仰向けの姿勢で横たわる釈迦を描き、その枕元には包みが置かれている。釈迦が横たわる宝床は足元の側面を表し、宝床の手前には供養台が設けられ、その上には香炉と、香炉の両脇に花(紅白の牡丹か)を活けた花器に加え、仏飯が置かれ、その手前には合掌する俗人男性が描かれる。横たわる釈迦の周りには様々な菩薩や天部、仏弟子、比丘、天部、力士、貴人、俗人などが配され、画面下部には種々の動物たちが描かれる。動物たちはそのほとんどが口に花をくわえ、釈迦を供養している。そして釈迦を取り囲むように沙羅の木が8本配され、画面向かって右側4本が枯れ、左側4本が満開の様子で表されている。また、画面左から2本目の沙羅の木には、釈迦の巡錫を象徴する斜めの錫杖と布にくるまれた鉢が枝に掛けられている。画面奥には跋提河が配され、画面上部やや左には満月が描かれており、画面上部手側には釈迦の実母である摩耶夫人が、侍女2人とともに天上世界から下天する様子が表されている。画中に描かれる釈迦は、肉身を金泥で表し、肉身線は朱線で描き起こしている。鼻は鼻梁線を描かず、正面から見るように両小鼻のみ表す。白毫は朱の輪郭線に白色で塗り表す。髪際は中央に突起のあるM字型で、緑青で髪際線を引く。現状では毛描き等は見受けられない。頭髪は群青で肉髻朱は朱で頂に白色の線を引き、頭髪との境には截金が置かれる。衣は黄土引きとし、衣文線や地文は精緻な截金が用いられている。また、釈迦の袈裟は南山袈裟となっており、緑の紐によって結ばれている。そして、釈迦が頭を載せる蓮台は全面裏箔によって表される。菩薩は白色もしくは黄土によって肉身を塗り、朱の隈を施し、各部位は朱線で描き起こしている。装身具の金物には全て裏箔が用いられる。仏弟子や比丘、貴人、俗人は主に黄みがかった、もしくは赤みがかった肉色で塗られ、やはり朱線によって部位が描き起こされる。天部や力士は赤や青、緑などで肉身を表し、頭髪や髭などには墨線の他に金泥線を用いて毛描きを施している。画面下部にまとめられた動物たちはそれぞれ丁寧に彩色されている。画面上部の摩耶夫人一行については剥落により表情等は見えにくいが、残り具合から会衆と同様の彩色であったと思われる。そして、沙羅の木に掛けられた仏鉢は、白色の布にくるまれているが、中が透けているように描かれている。仏鉢そのものは裏箔に加えて表からも金泥を塗り、模様は墨線で表している。それぞれ彩色は濃彩で丁寧に施されており、文様表現において金泥は限定的にのみ― 106 ―― 106 ―

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