鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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(2)雪舟との相違(3)室町時代の雪舟流との相違摘できる。また「山市晴嵐図」の2人の人物が山間を登る構図はその後も等顔「瀟湘八景詩画巻」(個人)〔図4〕巻頭の煙寺晩鐘図に、「遠浦帰帆図」〔図3〕と「洞庭秋月図」(文化庁)の岩と樹木、楼閣で構成される風景の単位は同画巻において、それぞれ左右反転させるなど構図を変えて引用され続ける(注3)。表現においては、佛通寺襖では樹葉に点描を用いるなど玉澗の筆墨に忠実に倣っている。また分節的な枝の描写をもつ樹木や、水面と地面に接する岩や土坡の量感と広がりを、斜めに筆を重ねて表す手法などは玉澗学習の反映と言える。これらの表現を基礎として、岩や樹木の描写に独自の創意を加えた「溌墨山水図」(山口県立美術館)〔図5〕や、「山水図」(東京藝術大学)〔図6〕のような型破りの作例も生まれた。雪舟の溌墨山水図は拙宗時代の団扇画(根津美術館)、自画賛本(東京国立博物館)、景徐周麟賛本(出光美術館)〔図7〕、汝南恵徹賛本(菊屋家住宅保存会)、以参周省ほか賛本(正木美術館)、「倣玉澗山水図」(岡山県立美術館)等が知られるが、いずれも小画面で、拙宗時代から構図は定型化している(注4)。迷いのない直線的な運筆とにじみを活かしたみずみずしい墨色が特徴である。一方で等顔は雪舟と構図が一部共通する作品はあるものの、表現において雪舟を模倣しようとする姿勢が低い。その違いは筆の動きに顕著で、等顔は岩などの輪郭を表すのに曲線も併用する。さらに等顔の墨の濃淡は階調の幅が広く、とりわけ淡墨を慎重に用いて各所に見えないほどの微かな筆を入れる繊細さを持ちあわせている。また雪舟の幻の溌墨山水図巻の同一模本として「備陽雪舟筆」落款を持つ作例〔図8〕と狩野家模本(東京国立博物館)が残る(注5)。その構図は水平線を画面中央に据え、直線的な運筆を縦、横、斜めに豪快に重ねて構成している。一方、等顔は「山水図巻」(吉川史料館)〔図9〕において俯瞰的な視点を採り山水空間に奥行を創出し、柔軟な運筆と柔和な墨色を用いている点で異なる。雪舟と等顔の間を繋ぐ存在として雪舟の直弟子筋の画家たちがおり、溌墨山水図の作例も多い(注6)。それらは現存作品に売立目録、狩野家模本まで含めても、雪舟と同じく掛軸など小画面作品が主であり、雪舟の筆勢の強い溌墨表現を柔和に整えたような特徴を持つ。なかでも白眉は等春「瀟湘八景図」(正木美術館)で、八景の構図や表現の自由度が高い点で他とは一線を画すものの、雪舟の雲谷庵を継いだ惟馨周― 113 ―― 113 ―

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