鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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研 究 者:奈良国立博物館 主任研究員  三 田 覚 之はじめに本研究は、法隆寺金堂に安置される三組の本尊像のうち、薬師如来坐像〔図1〕の下座に描かれた台座画を復元的に考察するものである。金堂内陣はその柱間によって「東の間」「中の間」「西の間」と呼ばれており、それぞれ薬師如来坐像、釈迦三尊像、阿弥陀三尊像が本尊とされている。これらの尊像はいずれも宣字形の台座を上下二段に重ねた二重の台座上に安置されており、各面には本来彩色された絵画が描かれていた。しかし作品自体の損傷が進み、ほとんどの彩色層が剥落してしまった現在、目視のみでは図像の識別は困難である。そこで今回、飛鳥時代に遡る各台座画の中でも、最も保存状態が良い薬師如来像下座背面を対象として、復元模造の制作を行った。なお実制作は松久宗琳佛所の諸橋重慧氏が行い、凸版印刷株式会社文化事業推進本部の協力を得た。なお、本研究の成果については別に東京国立博物館研究誌『MUSEUM』693において「法隆寺金堂薬師如来像台座画の想定復元について」を発表した。詳細はそちらに譲るとして、文字数に制限のある本稿ではその要点を記述し、研究成果報告としたい。1 薬師如来像の下座本稿で問題とする薬師如来像の下座背面画だが、その画面は縦82.1センチ、上部横幅73.0センチ、下部横幅74.3センチという大きさであり、腰部の形状に合わせて僅かに上すぼまりとなっている〔図2〕。これまでも法隆寺昭和資財帳の作成に伴う調査時の近赤外線撮影により僧形像の面部が確認されているが、今回は復元制作を行うことを予定し、撮影した赤外線画像〔図3〕をさらに細かく分析した。その結果、顔の部分以外にも描かれた図像について知見を得ることができたので、次に絵画の上部から順に、代表的な個所について述べることとしたい。― 1 ―― 1 ―1.2020年度助成Ⅰ.「美術に関する調査研究の助成」研究報告① 法隆寺金堂台座画の研究

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