鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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⑥動物僧形像に向かって右方には、僧形像の方を向くかたちで横向きに坐る獅子か虎のような動物のシルエットが認められる。よくみると胸前部分に残された彩色面には墨による毛描き線が認められ、これによって動物がここに描かれていたことは確実である。ただし、この部分以外ほぼ全ての顔料が剥落してしまっているため、あくまでシルエットからの推測だが、わずかに顔を上げて口を開き、舌を出しているようである。また後方には尻尾を跳ね上げているようで、丸く曲げた輪郭が、背景部分に用いられた顔料の剥落具合から推測される。⑦長靴僧形像が坐る褥の前方中央には一組の長靴が揃えて表わされている。長靴には現状で右足分の上半と甲に至る括り線、また左足分の履き口と踵が墨線で確認できる。履き口部分を除いてわずかに背景よりも彩色が濃く、右足分の甲はさらに濃い色を入れて立体感を出している。おそらくは革製のブーツを表現したものだろう。⑧山岳僧形像の左右には大きく山岳が描かれている。彩色面や墨の輪郭線を確認できる部分は向かって左方の下部のみだが、主に緑青焼けによって生じた図像の痕跡を追っていくと、いくつもの山塊を重ねて積み上がり、上部に樹木を生やした奇怪な山岳の姿が浮かび上がってくる。比較的によく残る左方の下部には大きく起伏した稜線とともに、下草を表わしたような3本の墨線が認められる。⑨岩と縞状文帯これもまたシルエットとして残っているにすぎないが、山岳の下部には岩盤を平らに積み重ねたような表現が認められる。類似の表現としては百済の故地である扶余窺岩面の外里遺跡(7世紀)から出土した山水山景文塼や山水鳳凰文塼にも認められ、百済美術との関係が考慮される。また岩の下には画面を上下に画するかたちで正方形を横に連ねた縞状文帯が描かれている。― 3 ―― 3 ―

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