⑩ 背景彩色次に図像ではないが、背景彩色について言及したい。台座画では白土と思われる白色下地を施した上から彩色が施されている。特に画面上部には白色がよく残されているが、先述した遠山霞文はこの白色部分に描かれているため、当初から上部の背景彩色は基本的に白色であったと考えられる。一方、僧形像や山岳の周囲は濃い灰色を呈している。僧形像の肌色が目視でもそれとわかるほど残っていることからすれば、周囲の背景は長年の汚損のみで濃い灰色になったわけではなく、当初からそう彩色されていたと考えるのが自然である。2 描き起こし作業と想定復元模写復元制作は、まず赤外線写真による全図をパネルに貼ったうえで、トレーシングフィルムを張り、筆ペンで描き起こした。第1段階の作業としては、墨線や彩色面の境界線が明確に残されている部分のみを抽出して黒の筆ペンで線を引いた。次に彩色面は残されていないものの、緑青焼けなどにより、文様部分が抜け落ちていることで輪郭線が知られる部分を朱の筆ペンで表示した〔図4〕。次に第2段階として更に上からトレーシングフィルムを張り、推定復元図の線画を作成した〔図5〕。その際、墨線や彩色面の境界が残されている部分は黒の実線で表わし、緑青焼けや剥落痕、また周囲に描かれた図像との連続性によって想定した部分は点線とした。本画は原作と同じくヒノキの板に描くこととし、その大きさを算出するため、原作の調査とともに昭和62、63年度に行われた公益財団法人美術院国宝修理所における修理時の記録写真を参照した。その結果、今回の制作にあたっては縦97.1センチ、横89.6センチ、厚2センチの板とし、原作においては縦に亀裂が走っている木芯の位置も揃えることとした。次に白土下地だが、先述のように原作には上から下に灰色のグラデーションが掛かっていたと考えられるため、白土に松煙墨と微量の群青を入れて色のバランスを整えつつ、徐々に濃くなるよう、これを塗布した。さて、想定復元における色の問題だが、予算の都合上、科学的手法を用いた顔料の同定作業は行っていない。背景彩色や僧形像の肌については目視で色がわかるが、樹木の葉や山岳、褥の縁については緑青焼けが認められるところから、基本的に緑青を用いたとの推定である。しかし宝珠や僧形像の袈裟、動物、長靴、岩については全く― 4 ―― 4 ―
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