を象徴したと捉えて間違いないだろう。では龍と鳳凰を対にすることは、どのような意味を持ったのであろう。中国の歴代皇帝は、古の聖人たちのように国を治めることが理想とされた。これは明代の皇帝にとっても同様で、とくに明初の段階では古典研究を通じて、正しい国家運営の在り方が模索された(注6)。聖人の統治については、例えば漢代の『淮南子』巻1、原道に、「泰古の二皇[伏羲と神農]は、道の要点を得て、中央に立ち、神妙と変化の中に遊び、それをもって四方を安んじた」(注7)とあり、聖王は「道」を掌握することによって、天下を安寧に治めたと記されている。さらに、人によって道が現出されると、天が瑞兆を表すと考えられており、天人感応説と呼ばれる。例えば、『淮南子』巻20、泰族には、聖王として名高い殷の高宗が統治を始めると、「人の気が天に働き、それにより景星が現れ、黄龍が下り、祥鳳が至った(形気動於天、則景星見、黄龍下、祥鳳至)」とあり、天が感応して龍と鳳凰が出現したと記されている。中国の思想では、羽の生物を陽、鱗の生物を陰と認識していたため(注8)、陰陽の代表である龍と鳳凰を描くことは、陰陽両気の完備を表した。そして、『周易』、繋辞上伝に、「一陰一陽これを道という(一陰一陽之謂道)」とあるように、陰陽が調和している状態を、「道」と表現したのである。したがって、龍と鳳凰によって陰陽の完備を表した官窯磁器は、道の出現を暗示し、明朝の皇帝が正しい政治を行っていることを象徴した可能性が高い。以上のように、短鼻五爪龍はまさに皇室の象徴たる龍文であった。これは中国の伝統的な思想を踏まえた文様であり、中華の正統な統治者であることを示した。さらに天人感応説に基づく瑞兆の文様としても用いられ、聖人政治の実現を象徴したと考えられる。タイプ② 長鼻三爪龍明代初期の龍文には、鼻が上に伸びたタイプも確認できる〔図9、10〕。この龍は、象のような長い鼻が特徴で、鼻の前面には鱗が表現され、牙は口の前方に集中して生えている。また、顔周辺の毛の付き方も異なり、短鼻五爪龍に見られた口髭が無く、下顎頭には特徴的な巻き毛を蓄えている。さらに、肘からは3本の毛が生えており、爪は3本で描かれている。本稿では、このタイプの龍を「長鼻三爪龍」と呼ぶ。長鼻三爪龍の構図は、2種類しか確認できないため、同じ見本を用いて龍の細部まで厳密に描かせたと考えられる。また、それが描かれた器種も、天球瓶か扁壺しかな― 151 ―― 151 ―
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