⑰フェノロサと円山四条派はじめに─ボストン美術館所蔵の円山四条派作品の概要米国ボストン美術館が所蔵する日本美術コレクションといえば、かねてより仏画や狩野派、近年では曾我蕭白の作品などが有名である。しかし、近世後期以降に京都を中心に活躍した円山四条派の絵画作品も相当数所蔵されていることは、あまり知られてはいない(注1)。執筆者は2019年から2021年にかけてボストン美術館にて勤務し、業務の一環として当館の作品総目録の編纂に従事した(注2)。このたび新たに「円山四条派」の章が加えられる本図録には、この画派だけで355点の作品が掲げられており、「近代」に収載済の作品や事前調査の時点で未収蔵・未発見であったものを加えれば、実際の所蔵総数は400点を下らないとみられる。画家数で見ても、円山派の絵師は28名、四条派は35名、岸派21名、森派12名、原派6名、さらに三畠上龍に端を発する上龍派や望月玉川以降の望月派、鈴木百年を筆頭とする鈴木派の画家たちもそれぞれ6名、10名、4名を数え、円山応挙から始まり近代に至る流れを通観できる世界有数の円山四条派コレクションとなっている。本コレクションは、その大半がアーネスト・フランシスコ・フェノロサ(1853~1908)およびウィリアム・スタージス・ビゲロー(1850~1926)によって蒐集されたものである。なかでもビゲローの寄贈品が多くを占めているが、彼が蒐集した絵画作品のうちの一定数はフェノロサの助言に従ったものと思われ(注3)、また館の受入れ後に二人のコレクションが混同して登録される事例もあり(注4)、現在の美術館のクレジットのみから二者の嗜好を明確に区別することは難しい。ゆえに本研究では、フェノロサ自筆のメモや著作物、展覧会への出品記録といった文献を参照しつつ、実際にフェノロサが言及・重視したことが確実な作品に着目する。それらの作品を現在の所蔵品と対照していくことによって、具体的にフェノロサの円山四条派観を復元することを目標とする。1.フェノロサと円山四条派絵師の交流明治11年(1878)に東京大学の教授として来日したフェノロサが本格的に日本美術の蒐集を始めたのは、翌年に中橋狩野家第十五代の狩野永悳(1815~91)に師事し、日本画派の研究を始めて以降のことと思われる。近年全頁が翻刻・刊行されたフェノ─ボストン美術館の所蔵品と『東洋美術史綱』所載作品の検討を通じて─研 究 者:東京大学大学院 人文社会系研究科 博士課程 竹 崎 宏 基― 184 ―― 184 ―
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