鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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結14世の親政以来の功績が描かれている。戦争画としては、敵国の同盟、フランスの軍備増強、ルイ14世の指揮や敵国主要都市の陥落、講和条約などが描かれ、フランスの優位やルイ14世の軍事的才能が強調されている。内政を描いた絵画には、臣民への慰問、王立廃兵院の設立、芸術の庇護、司法や財政の再建などルイ14世の多岐にわたる政策が描かれている。天井画の図像は古代ローマ風の衣装を身につけて描かれている上、ルイ14世はあらゆる場面で古代ローマ神話の神々によって祝福されている。このように古代ローマに仮託してルイ14世を描いた天井画と、完璧な統治を意味する古代ローマ皇帝たちの胸像を併置することにより、ルイ14世の統治の完璧さが強調されている。つまり天井画のルイ14世は、まさに12人の古代ローマ皇帝たちが帝国の礎を築いて最盛期を迎えるまでの歴史とパラレルになっているといえる。古代ローマ皇帝胸像が豊饒の間に設置されていた間は、神話画や歴史画によりルイ14世の美徳が表現された王のアパルトマンのプロローグとして、ルイ14世がヴェルサイユを中心地として繰り広げる政治の完璧さを表現していた。ところが、アパルトマンの改装によって宮殿内の動線が変わると、豊饒の間は人目に触れにくくなった。古代ローマ皇帝の胸像コレクションは鏡の間に移されることで、ルイ14世の国内外の功績という天井画の主題を強調する役割を担うこととなったと理解される。ルイ14世の古代ローマ皇帝の胸像コレクションは国政の中心地となったヴェルサイユ宮殿の王のアパルトマンに飾られることで、王の完璧な統治を象徴していた。さらに、それらは動線の変更を機に元の象徴性を弱体化させ、その解決として豊饒の間から鏡の間に移動されることで結果的にかえってその象徴性を強化したと理解される。そのきっかけとして、本研究では王のアパルトマンの改装を提案した。王のアパルトマンの改装はルイ14世の宮廷生活の利便性を図ったものであったが、それに伴って人々の動線が変わり、目にする装飾やコレクションも変わった。古代ローマ皇帝胸像コレクションは、鏡の間に移動することで再び多くの人々の目に触れ、天井画の主題とあいまって王の完璧な統治を暗示した。古代ローマ皇帝胸像は鏡の間に配置されることでその装飾の象徴性を強化したといえる。謝辞本研究の過程で慶應義塾大学遠山公一教授のご推薦ならびにご指導、同大学金山弘昌― 211 ―― 211 ―

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