鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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㉒ MoMAにおけるタイムベースドアート収蔵の発端とその発展に関する研究研 究 者:国立新美術館 特定研究員  小野寺 奈 津1、はじめにニューヨーク近代美術館(以下MoMA)は1929年の開館以来、絵画や彫刻だけでなく、映像をいち早くコレクションの収集対象としてきたことで知られる。その発端は初代館長を務めたアルフレッド・バー(Alfred Hamilton Barr Jr., 1902-81)が1935年に設立したフィルムライブラリーにまで遡ることができる。特にアメリカではMoMAが映像を収蔵対象とした初めての美術館であり、商業映画、および美術作家たちによる映像作品を含めた総合的な映像の収集を行ってきた。フィルムライブラリーは1966年にフィルム部門になり、1994年にフィルム&ヴィデオ部門、2001年にフィルム&メディア部門へ、さらには2006年にそれぞれが分化し、フィルムとメディアアート作品はそれぞれの部門として独立する形となった(注1)。続いて2009年にメディア&パフォーマンス部門が設立されることとなり、現状では主に映画はフィルム部門へ、また映像作品はメディア&パフォーマンス部門へと区分されている。開館90周年である2019年には世界的に見ても初となるパフォーマンス作品、およびタイムベースドアートを恒常的に紹介する展示室を増設している。MoMAはこのメディア&パフォーマンス部門が扱う範囲について、時間軸を持つタイムベースドアートを収集、展示、保存することとし、映像、映像インスタレーション、ヴィデオ、パフォーマンス、そして何らかの動きと音を土台とした、時間や持続を表す作品を対象とすることを紹介している(注2)。今回はMoMAにおけるタイムベースドアート収集の発端である、フィルムライブラリー設立の経緯とその発展について調査を行った。映像を20世紀の重要な芸術表現として捉え、先駆的に美術館の収蔵対象としたアルフレッド・バーの美術館構想を出発点とし、美術館の初期の活動においてフィルムライブラリーの当時の実践がどのようなものだったのかをより明らかにすることを試みたい。MoMAはメディアの発展、および作品の展開に伴って部門の形態を変化させてきたが、このように収蔵する作品の範囲を拡張させてきた経緯、およびその際に部門が果たすべき役割にどのような変更を行ってきたかは明らかにされてきているとはいえない。― 240 ―― 240 ―

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