パルメット概観パルメットは使用頻度の高い文様である。林良一の用語を踏襲してパルメットを分類すると、波状唐草、並列唐草、蓮蕾吹き出し文、虺龍文系雲唐草の別がある〔図1〕(注3)。波状唐草は茎が主導する文様である。茎が湾曲してできた山と谷に配した唐草の形状に相異があり、その違いによって3類型に細分することができる。それぞれ波状Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型と呼ぶことにすると、まず波状Ⅰ型は、半パルメット同士を合わせて、背同士の接合部に蕊を挟む形態を指し、端正な対称形をとる。Ⅱ型は、湾曲して楕円状に巻き込んだ葉文が重なる、複雑な形をなす。そしてⅢ型は、蕊がなく、平行する2枚の半パルメットが重なり合う双葉形と、これが1枚にとどまる単葉形を指す。これに対して並列唐草は、茎を伴わない類で、半パルメット並列唐草と蓮華円花文をめぐるパルメット並列文とに分かれる。半パルメット並列唐草は、「三瓣連結文」のことを指すが(長廣,1946)、麦積山には3葉と共に4葉も見られるため、「半パルメット並列唐草」の名を借用する(注4)。半パルメット並列唐草が並列して環状を呈し蓮華円花文と結合すると、蓮華円花文をめぐるパルメット並列文になる。蓮蕾吹き出し文は、変化生に当たる(吉村,1999)(注5)。頭部と腹部を環状の結節でつなぎ、頭部あるいは結節部からパルメットが吹き出し、腹部の下端すなわち尖った尾部と共に後方になびく。虺龍文系雲唐草は、パルメットの変種である。長廣がこれを流雲文と呼んで、漢代以来の伝統形式に連なるとみた。他方、雲文風の波状唐草と関連があることと、雲文風の文様は中国の伝統的な流雲文に刺激されたことを、林が指摘している(注6)。細部を見ると、茎の山と谷、あるいは環状の中に巻き込んだ茎に、瘤節形が数個ずつつく。波状唐草波状唐草は前述したように3類型に分けられ、波状の茎が文様帯を貫通し躍動感を与える。いずれも繊細、流麗な筆致で、鮮やかな色調を呈している。下層例が見当たらず、上層例に限られる点も勘案すると、波状唐草は様式2に当たるとして誤りない。波状Ⅰ型から例を挙げていくと、既述したように、半パルメット同士を背合わせにして、接合部に蕊を挟む形状をとる。このようなⅠ型を配した窟が数多くあり、第5・20・22・26・27・36・65・70・71・83・88・90・94・98・113・121・126・140・141窟龕にその例が見られる。これら諸例のうち、第5窟には描画が2か所あり、右壁の― 365 ―― 365 ―
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