鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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頭光文様帯及び右龕の縁帯である。他の諸例は頭光・身光の文様帯に限られる。頭光例は坐仏と脇侍にあって、例が多い。身光例は1例にとどまり、第90龕本尊がそれに当たる。数多い頭光例を詳しく取り上げると、第20・22・26・27・36・65・83・88・94・98・113・121・126・140・141窟龕で例が挙げられる。これらのうち、本尊例が最も多く、第20・22・36・83・88・94・98・113・121・126・140・141窟龕に見られる。残る左右壁の坐仏例は、第26窟で左壁奥坐仏・第27窟で右壁奥龕坐仏・第65窟で右壁奥坐仏がそれに当たる。第140・141窟では、本尊例のうえに左右壁坐仏例が加わる。第140窟で左右壁坐仏、そして第141窟では左壁奥龕に加え、中央龕、右壁奥龕と前壁に近い龕の坐仏に、頭光を飾る波状Ⅰ型の例がある。なお、第141窟の左壁中央龕例の場合は、残存していた壁画片から、頭光にⅠ型描画のあったことが推認される(注7)。脇侍例は、第70・71龕の左右脇侍例にとどまる。Ⅰ型の諸例のうち、第5(右壁頭光)・20(本尊)・22(本尊)・70(左脇侍)・71(右脇侍)・90(本尊)・113(本尊)・140(本尊、左坐仏)・141(本尊、左壁奥龕坐仏)窟龕例が比較的残存状態がよい〔図2〕。これらを手掛かりにしつつ、Ⅰ型を詳しく観察すると、形状は基本形を保ちながら、パルメットに小葉を付加し、あるいは蕊の形を変えてあることが窺える。なかでも第5・20・22・90・113・140・141窟龕例は半パルメットの内側に1~2枚の小葉を添えて、全形パルメット風に仕立て、立体的な描出を目指した点で注意を引く。さて、蕊の形状は後述する数例を除き、花糸形と十字花形に大別される。花糸形は本尊の頭光に限られ、第20・113・126・140窟がその例として挙げられる。なかでも、第113・140窟例の場合、花糸の先端に円形の花葯をつけて加飾に富む。一方、十字花形の使用は坐仏と脇侍に跨り、頭光がその配置箇所となる。坐仏例として第20・22・88・126・140・141窟が挙げられ、これらのうち、第20・126・140窟は花糸形例でもあり、2種を交互に配してある。なお、第141窟だけは、左右壁の現存する3坐仏の全例が十字花形である。脇侍例の第70・71龕の場合、十字花形を連続して配したのが第70龕例で、十字花形とその側面形を交互に配したのが第71龕例である。蕊には、花糸形と十字花形にとどまらず、少数だが綿花形や円形も見られる。例として第5・22・90・141(本尊)窟が挙げられ、いずれも類例を欠く。なお、具体的な説明を加えなかった第26・27・36・65・83・94・98・121窟例に関して、壁画の残存がわずかなことや黒変が妨げになって、蕊の形状を確認するに至らなかった。次いで波状Ⅱ型は、楕円状に巻き込んだ茎に瘤節形を重ね、これを茎の山と谷に配― 366 ―― 366 ―

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