鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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侍の視認例は、第90龕左右脇侍頭光、第101窟右壁左脇侍頭光、第115窟左右脇侍頭光と身光で、影塑の視認例は、第80窟正壁左側小龕で二仏並坐の左像の頭光と身光、第114窟正壁右側右像の頭光である〔図5〕。これらの例の多くは、上層文様の間隙をぬって半パルメット並列唐草の存在が垣間見えるので、下層に属する。第23・80・90・101窟龕例がそれに当たる。また、褪色が著しいため、第114・115窟例や第148窟影塑例は経年変化、第101窟脇侍例は黒変によって、色彩の確認ができない。龕楣例の第112窟は剥落したせいで、色彩は白系と黒系だけが知られる。このように、描画が下層にある点、多くの例が色褪せている点を併せると、これらの例は様式1に属するとみて誤りないだろう。さて、半パルメット並列唐草の弁の形状を観察すると、第115窟では、ことごとく4葉になっており、弁が細長く、筆致の繊細さが抜きん出ている。3葉例は、第112窟左右壁の龕楣と第114窟正壁の左右壁面の影塑坐仏の頭光に見られ、数が少ない。第23窟例は磨滅を被って、弁数の確認に至らなかった。上記諸例を総覧すると、様式1例の窟龕は以下の通りである。様式1: 坐仏例:23・101・115・128・148 脇侍例:90・101・115 影塑例:80・114 龕楣例:112半パルメット並列唐草に次いで、蓮華円花文をめぐるパルメット並列文を取り上げると、第23・117・第133-2窟龕天井の3例が知られ、いずれも全形パルメットと蓮華円花文で構成されている〔図6〕。ところが、これらのうち、第23窟と第133-2龕例は、第117窟例と異なる。すなわち第23・133-2窟龕では、平らな天井に配した大型の蓮華から、8本のパルメットが伸びる。しかも、パルメットの大きさ、長さとも、蓮華本体と比較して、大型である。第133-2龕例は、6葉全形パルメットを具える。蓮華円花文とパルメットの形状が古拙で描線が粗い点を勘案すると、両例とも様式1の類に帰属させるのが適切であろう。上記の2例に対して第117窟例は著しく黒変し、蓮弁が二周めぐる蓮華を天井中央に描いたことがかろうじて視認できる。これに添えたパルメットは本数が多く、13本を数える。この例は、切り込みを入れて弁頭を精確に描き、種の跡が残る花托を具え― 368 ―― 368 ―

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