腹部を観察すると、横線または縦線が複数例で認められる。縦線の例は第17・110・114・132・133・133-6・142・154・158・163窟龕で〔図9〕、横線の例は第27・76・82・101・117・123・159窟龕で知られる〔図10〕。第116龕例は、対置した蓮蕾吹き出し文の腹部を、縦線と横線を重ねた網目文で満たす〔図11〕。1例にとどまるから、異例視してよかろう。諸例のうち、例数の多い縦線例は形状の変異幅が大きいために、共通点を抽出するのが困難である。しかし、上で様式2と推断した例がここに含まれていないことは、これらの縦線例が様式1に当たることを推測させる。残る諸例のうち、第16・92・154窟例は、塗り重ねが見られない点で、様式1に属し、また、下層に描いた点や褪色が著しい点で、第23・54・80・86・123窟龕例と第160窟天井後側・右壁例も、様式1に加えて差し支えない〔図12〕。第101・123窟例はともに腹部に横線を有し、第101窟例は近接する蓮華や飛天の描画の古拙さから、第123窟例は描き直すための白系の塗彩が上層に被る点から、両例とも様式1に属するとみてよい。他方、第4・26・43・53・窟例の場合は、いずれも鮮やかな青系あるいは緑系で塗彩したパルメットをなびかせているので、様式2に当たる。以上、縷述した諸根拠に基づくならば、例に挙げた窟龕は、これを以下に列挙したような様式に大別することができる(注8)。様式1: 16・17・23・54・80・86・92・101・110・114・123・132・133・133-6・142・154・158・160(天井後側と右壁面)・163様式2: 4・26・27・43・53・76・81・82・113・116・117・121・126・140・155・159・160(天井後側と右側)虺龍文系雲唐草この文様の場合、描出箇所が梁柱・光背・龕縁・台座縁・壁面・小龕柱に亘り、他のパルメット文様に較べて広範である。すなわち、梁柱例として第26・27・35・36・65・85・88・109・121・141・160窟があり、光背文様帯例として第83・88・90・142・155窟龕、さらに龕縁例として第22・39・121窟龕、台座縁例として第43・45窟龕、壁面縁帯例として第127・135窟が挙げられる。小龕の柱例として第74龕の1例があり、思惟菩薩像を据えた壁面の小龕の柱が描出箇所に当たる。諸例を通観すると、波状茎のS字形を基本にし、これをあるいは連続させ、あるいは2個を背置または2個を対置させる。そしてS字形の山と谷に「虺龍文系のC字形渦巻瘤節」を充填し(注9)、全例ではないがS字形の接続部や交差部を小環でとめる。― 370 ―― 370 ―
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