多数を占める梁柱例から取り上げると、黒変・剥落を被るため、いずれの例も痕跡はわずかである。描出箇所に当たる梁柱には彫り出しと、描き出しの別がある。彫り出し梁として第26・27・35・36・65・109・141窟例が、描き出し梁として第85・88・121・160窟例がそれぞれ挙げられる〔図13〕。虺龍文系雲唐草は視認できる範囲でいうと、S字形を連続させた例が第27・85・88窟で、S字形2個を背置させた例が第26・65窟でかろうじて見て取れる。ところで、壁面縁帯例として挙げた第127・135窟はまた、梁の彫り出し例でもある。両窟は窟形式や規模が近似するので、保存状態のよい第127窟によって代表させると、この窟の梁には虺龍文系雲唐草が見当たらず、類例を見ない花格子風の文様がその箇所を占めている〔図14の1〕。加えて、壁面を限る帯状の虺龍文系雲唐草の形状も通例と異なる。すなわち、壁面を上下に区画する横帯と底部を限る1帯はこれを装飾的な連続渦状で、窟入口の縁帯〔図14の2〕はこれを波状で飾る。また、右前壁中央の横帯は、外縁に三角文を伴う〔図14の3〕。これは他に例を見ない。つまり、第127窟例の特異な点は、花格子文への置換だけにとどまらないのである。話を戻すと、光背例として挙げた第83・88・90・142・155窟龕は、いずれも虺龍文系雲唐草を坐仏に施し、頭光あるいは身光の文様帯に描いてある〔図15〕。また、龕縁例とした第22・39・121窟龕の場合は、3例とも本尊龕の縁取りであり、台座縁例とした第43・45窟龕の場合は本尊や左坐仏の台座である。なお、上述したように、文様上の相異としてS字形の連続文と2個背置・対置文があった。光背文様帯例の第88・90・155窟龕、台座縁例の第43窟が連続文、台座縁例の第45龕が2個背置文であるから、梁柱例の場合と変わらない。小龕柱の第74龕例は2個対置文である〔図16〕。塗彩は緑系、黒系、青系に大別される。緑系が多く、第39・45・65・74・83・85・88・90・109・121・127・135・141・142・155・160窟龕例がそれに当たる。これに対して、黒系は第26・27(梁)・43窟、青系は第22窟にとどまる。ところが、第127・135窟例は類例の多い緑系に属する一方、上述したように壁面の虺龍文系雲唐草は形状や三角文随伴の点で異色であった。また、彫り出し梁柱を飾る通例の虺龍文系雲唐草を花格子文に置き換えてもあった。そこで、彫り出し梁柱を具えた窟例を検索してみると、共伴する文様に様式2を欠くのは両窟に限られ、残る第26・27・35・36・65・141窟では様式2とした唐草波状Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ型や蓮蕾吹き出し文が伴っていることが知られる。すなわち、第127・135窟の描画は、様式1に当たる点で、様式2に属する他の彫り出し梁柱例と区別される。つまり、両窟例にみる種々の特異さは虺龍文系雲唐草の形状や配置が定式化を遂げる以前の、初現期ないし模索― 371 ―― 371 ―
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