鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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『中国名画集』と現在の中国絵画データベースの照合め作品を貸す約束をした記述(注15)があり、いずれも撮影を断られたようには見えないが、事実として、西崖の中国滞在中に写真撮影は実現していない。次に、筆者は『中国名画集』(A、B)およびC-①について、現在の中国絵画のデータベースとの照合作業を進めた。照合にあたっては、『中国絵画総合図録』『同続編』『同三編』(東京大学出版会、1982-2020、以下『図録』と略す)全15巻と、『中国古代書画図目』(文物出版社、1986-2001、以下『図目』と略す)全24巻および台湾の国立故宮博物院のオンライン所蔵品データベースを利用した(注16)。『図録』は東京大学東洋文化研究所が行なった中国絵画の所在調査に基づき、中国大陸と台湾故宮博物院を除くアジア、アメリカ・カナダ、ヨーロッパ、日本の美術館・博物館・個人等に収蔵されている中国絵画の単色図版を収録している。『図目』は1983年に中華人民共和国文化部文物局の中国古代書画鑑定組が行った鑑定調査に基づき、中国国内に現存する書画中の佳品を収蔵機関別に単色図版で収録している。これらに台湾故宮を含めた3種により全地域のほぼ全ての中国絵画コレクションの画像データベースをカバーしているとはいえるが、特に『図目』は調査から時間が経過しており、近年改めて活発になった中国絵画市場の変化は反映していない。照合にあたっては作品の各種情報と西崖の日記に残る付帯情報との対照、および写真による視覚的同定判断を行った。作品サイズは数ミリ程度の差異は容認した。調査結果紙幅の関係上、ここでは調査結果を概観し、また特筆すべき事項について述べる。調査対象(A、B、C-①)は全部で343件832点。〔表1〕は調査対象を作品の由来と時代別に整理したものである。西崖が中国で撮影したもの270件721点、延光室の写真6件15点、『文人画選』67件96点である。このうち、現在の所蔵が判明したのは全部で91件302点、点数で見ると36%であり、西崖が中国で撮影した写真に限定すると判明率40%である(以下、%表示は全て点数で計算した)。4割という数字は決して多くはないが、近年の美術市場の活況を得て、今後新たに収蔵先が確認されるものも出てくることが期待される(注17)。次に〔表2〕では作品の時代別および収蔵地域別の分布を示した。調査対象全体では、時代別に見ると唐~宋代の作品が11%、元代6%、明代26%、清代56%となっており、明・清代だけで全体の八割以上を占めている。これらについての所蔵先判明率― 392 ―― 392 ―

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