鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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注⑴後藤亮子「大村西崖の美術史とその中国絵画観の変遷」『美術史』第189冊、2020。⑵大村西崖著、吉田千鶴子編修、後藤亮子編修協力『西崖 中国旅行日記』ゆまに書房、2016年。西崖が撮影を許可された清内府所蔵品について一方、清内府所蔵品について、今回以下の事実が判明した。〔図5〕と西崖の清内府所蔵作品撮影記録を比較すると、大部分に重複が見られる([1-29~35]、[1-53~67]、[2-108]、[2-121]、[2-129]、[2-133]、[5-473~482]等)。リストで重複している延光室の写真は日本に所蔵が確認できないため未見だが、西崖が撮影できた作品の大部分は佟も撮影していたものだったと思われる。西崖の撮影当時、これらの作品は溥儀の太傅であった陳宝琛(1848-1935)を通じて借り出されており、陳は佟に撮影を許可した作品を中心に西崖に閲覧・撮影させたのであろう。西崖が初の訪中で清内府の収蔵品を調査できたのは快挙であったが、一方、その膨大な収蔵品へのアクセスは限られており、公開された作品は限定的だったといえよう。おわりに本調査は、大村西崖晩年の中国絵画史の前提となった中国古画調査の実態を精査したものである。ちょうど100年前に行われた中国古画調査において、西崖が作品撮影時に調査データを詳しく記録していたことには大きな意義があり、今回の調査によって『名画集』等の800枚以上の作品写真にこれらのデータが結びつけられた。また現在の所蔵者の調査では、西崖の撮影した名画の4割の所蔵が明らかになった。これらの調査結果は近現代の中国絵画史成立の前提となった作品イメージ世界を具体的に我々に示すものであり、今後の研究に大いに資するものと思われる。調査結果の詳細は、中国美術学院の「中国画学」プロジェクトの一環として、西崖の中国旅行日記の中国語版と共に中国美術学院出版社より近日出版される予定であるので参照されたい。本文執筆にあたっては大村陽子氏、富士山かぐや姫ミュージアムの高林晶子氏、東京藝術大学美術学部近現代美術史・大学史研究センターの古田亮氏、浅井ふたば氏、芹生春菜氏、旧教育資料編纂室の大西純子氏、九州大学の井手誠之輔教授、中国美術学院の高世名院長、洪再新教授に多大なご助力とご支援を頂きました。衷心より感謝申し上げます。― 395 ―― 395 ―

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