鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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[③ヴァスールの石版画の残存状況の調査結果]・大浦天主堂キリシタン博物館(長崎県長崎市南山手町)-7点〔表1〕・ド・ロ神父記念館(長崎県長崎市西出津町)-2点〔表2〕②ド・ロ版画制作地:大浦天主堂境内(長崎)  制作時期:1875~9年  収蔵機関:大浦天主堂キリシタン博物館、その他③ヴァスールの石版画制作地:フランス  制作時期:1870年代以降  収蔵機関:大浦天主堂キリシタン博物館、ド・ロ神父記念館、堂崎天主堂キリシタン資料館①のヴァスールの木版画群は、ド・ロの遺品を保管するお告げのマリア修道会が収蔵しており、その構図の類似性からもド・ロがヴァスールの木版画を参考にしていることは明らかである。よって、①のヴァスールの木版画の制作年代は工房が設置された1864年から、ド・ロ版画が制作されたとされる1870年代までに印刷されたのものと考えられる。③のヴァスールの石版画については、1871年にヴァスールがフランスに帰国し、その後に画像事業に引き続き取り組んだと記事にあることから、1870年代以降のものである(注7)。所在情報について本研究で調査の対象としたのは、このうち③である。調査の結果、3つの施設に10点を確認した。なお、ド・ロ版画の所在調査については2018年に筆者も参加した全国調査によって88点の現存が確認され、所在情報が公開されている(注8)。同館は2018年4月にカトリック長崎大司教区により設置され、教区本部の所有する資料を管理している。7点の収蔵経緯に関する情報は残されておらず、長崎県内の教会から移管されてきた可能性がある。同館は1968年にド・ロが赴任して司牧を行った地域に開館し、ド・ロの遺品を展示している。ヴァスールの石版画はド・ロの遺品に含まれていたものと推測され、ド・ロが同地で活動した、1879年から1911年の間に輸入された可能性がある。― 424 ―― 424 ―

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