鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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①ネパール近代美術の基礎的研究研 究 者:福岡アジア美術館 学芸員  山 木 裕 子はじめに2011年、筆者は、福岡アジア美術館の自主企画展として、「華麗なるネパールの神仏 ポーバ絵画の世界」展(以下、ポーバ展と称する)を企画・実施した。この展覧会は、ネパールのカトマンドゥ盆地の先住民族ネワール族によって描かれる伝統的な宗教絵画「ポーバ」の今日の多様な展開を紹介した展覧会(注1)である。その実施までに、筆者は、2004年、2010年とネパールで現地調査をおこない、現存する31作家の51作品を出品作品として選考した。その二度にわたる現地調査で現代のポーバを調べていく中で、20世紀前半に活動したアナンダムニ・シャキャ(Anandamuni Shakya, 1903-44)という画家が、現代のポーバ作家たちに大きな影響を与えていることを知った。だが、そのアナンダムニ・シャキャについてはまとまった書籍・文献などはなく、印刷による複製画を見ることはできたものの、現存作品についてもその所在に関しての情報を得たのみで、実見することが叶わなかった。ネパールにおいては、特に近代以降の美術史研究は、アジア諸国の中でも遅れている状況にあり、近代美術についての研究者も書籍も非常に少なく、ネパールの近代美術史の流れする詳らかになっているとはいい難い。そこで今回の調査では、アナンダムニ・シャキャの現存作品を実見し、その画歴を紐解くことで、20世紀前半におけるポーバ絵画の状況、ひいてはネパールの近代絵画史の展開を明らかにしたいと考える。1 ポーバ絵画とは11世紀頃にインドから伝わった仏教絵画は、カトマンドゥ盆地のネワール族によって、独自の発展をとげる。それがネパールの伝統的な宗教絵画「ポーバ」(ネワール語で「布絵仏画」を意味する)である。仏教やヒンドゥーの神仏や曼陀羅などが描かれ、現在もカトマンドゥ、パタン、バクタプルの三都市で、100名を超える画家たちによって、盛んに制作されている。福岡アジア美術館では、現代のポーバ絵画を30作家41点所蔵している。― 554 ―― 554 ―4.2017年度助成

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