鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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A:タラガオン博物館B:プリスヴィ・パンデ氏キャ(Shakya)」は、元々「僧侶」のカーストであることを意味する。2010年の調査の段階で、アナンダムニ・シャキャの作品として、その図柄が確認できたものは、貝の上に立つ神仏像〔図1、2〕のみであった。穏やかな表情の菩薩像と、憤怒の表情をしているマハカーラー(シヴァ神)が、おそらく一対として描かれたものである。これらの作品は印刷による複写物が複数残っているが、作品現物の所在は明らかではない。神仏を写実的に描くという点では、原田直次郎「騎龍観音」や本多錦吉郎「羽衣天女」といった日本の近代洋画家たちの作品が思い起こされるが、アナンダムニの作品は、鉱物顔料または水彩でより繊細な筆致で描かれている。その他、前述のポーバ展出品作品のうち2点が、ハヌマンドゥカ博物館所蔵のアナンダムニ・シャキャの作品を模倣した作品であるということがわかったが、残念ながらハヌマンドゥカ博物館の所蔵品は2010年時には実見することが叶わなかった。3 アナンダムニ・シャキャの現存作品:現地調査の概要今回2017年8月に、ポーバ画家ウダヤ・チャラン・スレスタ氏の協力のもと、ネパールのカトマンドゥを中心に現地調査をおこなった。個人コレクター6件、公立博物館1件の計7か所を訪れ、作品を実見することができた。その中から、アナンダムニ・シャキャの作品と推定される10点を確認した〔表1、調査順〕。以下、調査時の所蔵者本人へのインタビューから知りえた作品の概要と取得した経緯を、所蔵者別にまとめる。近代以降の外国人アーティストによるネパールの写真や絵画、建築に関する資料を収集展示している企業経営の博物館である。①〔図3〕は、インドのカンパニー絵画を思わせる、初期洋風画的な作品である。現館長ローシャン・ミシュラ氏の祖父を描いたものであり、ミシュラ氏の祖父は、アナンダムニと親交があり、その縁で肖像画を描いてもらったという。パンデ氏は、ネパール投資銀行の創設者であり、美術作品を多数所蔵するコレクターである。もともとネパールの有力者の家系で、政治の要職についていた祖父がアナンダムニと親交があったという。― 556 ―― 556 ―

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