鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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注⑴『華麗なるネパールの神仏 ポーバ絵画の世界』展図録、福岡アジア美術館、2011⑵Madan Chitrakar, “Nepali Painting Through the Ages”, Patan Museum 2017おわりに─今後の課題として─2007年にネパールで初となる近代絵画の展覧会「パイオニアへの賛辞:ネパール美術の物故長老作家たちの歴史画コレクション」では、チャンドラ・マン・シン・マスケ(Chandra Man Singh Maskey, 1899-1984)、テジ・バハドゥール・チトラカール(TejBahadur Chitrakar, 1898-1971)、バルクリシュナ・サマ(Balkrishna Sama, 1902-81)、R Nジョシ(Rama Nanda Joshi, 1938-88)の4人の画家の業績が紹介された。アナンダムニ・シャキャは、チャンドラ・マン・シン・マスケやテジ・バハドゥール・チトラカールらとそのほぼ同世代であり、チベットやインドを訪れ、そこで得た新しい手法を取り入れ、写実的な表現を取り入れた風景画や人物画、仏画を制作し、1941年にはカトマンドゥ・アート・ギャラリーを創設した。油彩画の制作こそなかったが、ネパール絵画史に残した足跡はとても大きなものであり、ネパールの近代美術を語る上では欠くことのできない存在といえる。一方、R Nジョシは、抽象画のパイオニア的存在ではあるが、他の3人よりは少し後の世代の作家だといえる。むしろほぼ同世代のアナンダムニ・シャキャを加えた4名が、20世紀前半のネパール絵画を先導した画家だといえるのではないだろうか。マダン・チトラカール氏によると、ネパールの絵画は、絵師のカーストである「チトラカール」によって作られた歴史であるという(注8)。だとすると、アナンダムニ・「シャキャ」や、チャンドラ・マン・シン・「マスケ」など、「チトラカール」以外の画家が現れたことこそが、ネパールの近代美術の始まりだといえるのではないだろうか。今回の調査では、アナンダムニ・シャキャの現存作品の所在を確認し、作品を実見することで、その画業の一端を明らかにすることができたが、当初、目的の一つとしていた油彩画家たちの画業については、詳しく調べるところまでたどりつかなかった。アナンダムニ作品の所蔵者であるプリスヴィ・パンデ氏、サンゲ・ダス・スレスタ氏は、アナンダムニ作品に限らず、ネパールの近現代美術の大きなコレクションを有しており、今後さらに詳細な調査が必要である。さらに、アナンダムニと、カイザー・シャムシェル・ラナやリチャード・ゴードン・マッツェンらとの影響をより具体的にみていくことも必要であり、今後の課題としたい。― 560 ―― 560 ―

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