鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
593/602

史研究を進展させるために国際シンポジウムを開催するという企画は、すでに2018年頃から少しずつ具体化していた。日仏美術学会はこの40年間、数多くの外国人研究者を招聘しつつ、日本におけるフランス美術研究を活性化し、独自の成果をもたらしてきたが、その延長線上で本シンポジウムも構想されたのである。一方、フランス本国の美術史研究は、2001年に国立美術史研究所(Institut national dʼhistoire de lʼart)が創設されて以来、大きな変貌を遂げ、欧米中心主義から脱却して、アジアも含めた新たな国際的な学術ネットワークを構築することを模索している。時代は変化し、美術史という学問の形もまた、多様化、グローバル化の方向に進んでいるのは否めないところである。今回の記念シンポジウムは、そのような状況を視野に入れたため、フランス国立美術史研究所のエリック・ド・シャセイ所長を基調講演者としてお迎えすることは自然に決まっていった。さらに、中世、近世、近代、現代の美術を専門とするフランスの研究者の方に、各時代につき一人ずつご発表いただき、それに日本の異なる世代の二人の研究者を組み合わせて、3人一組のセクションを4つ設けるという方式を思いついた。各セクションのテーマとして、1日目は第1セクションの中世が「中世美術史と考古学」、第2セクションの近世が「対象と方法の再検討」、2日目は第3セクションの近代が「日仏美術の相互交渉」、第4セクションの現代が「他者の構築と表象」となった。それぞれの時代の美術について、セクション毎に日仏3人の研究者によって、近年の成果や新しい動向を踏まえながら、テーマを設定して研究発表を行うという構成であった。そして、2日目の最後には、日仏美術学会名誉会長である高階秀爾東京大学名誉教授によって、シンポジウム全体の総括がなされるというのが全体の構成であった。シンポジウム当日は、日仏美術学会浅野春男会長の挨拶、シンポジウム実行委員長三浦篤による趣旨説明で幕を開け、引き続きフランス国立美術史研究所所長エリック・ド・シャセイ氏による基調講演が行われた。外国で活動したフランス人、フランスで活動した外国人での場合が典型的に示すように、画家や絵画作品におけるフランス性の曖昧さ、不確定さを改めて指摘され、美術史研究はそもそもグローバルな視野を持たねばならないことを強調された。まさに本シンポジウムに主軸を与えるような内容の基調講演であった。その後、中世、近世、近代、現代の4つのセッションが続き、各セッションにおいて3名(日本人登壇者2名、フランス人登壇者1名)の研究発表と質疑応答が行われた。― 578 ―― 578 ―

元のページ  ../index.html#593

このブックを見る