第1セクション「中世美術史と考古学」では、奈良澤由美(城西大学)、マルク・カルル・シュール(ストラスブール大学)、木俣元一(名古屋大学)の三氏が、キリスト教典礼備品、ストラスブールとメッスの教会建築、シャルトル大聖堂の彫刻を例示しながら、中世美術史に考古学的な視点がいかに働くのか分析した。第2セクションの「対象と方法の再検討」では、小林亜紀子(東京藝術大学)、ニコラ・ミロヴァノヴィッチ(ルーヴル美術館)、栗田秀法(名古屋大学)という三氏が、18世紀のタピスリー、ル・ナン兄弟、プッサンを対象に、近世美術への方法論的アプローチの多様性を提示した。第3セクション「日仏美術の相互交渉」では、小泉順也(一橋大学)、セゴレーヌ・ル・メン(パリ・ナンテール大学名誉教授)、三浦篤(東京大学)という19世紀美術を専門とする三名の研究者が、日本におけるフランス近代美術コレクション、モネのジャポニスム絵画、1878年パリ万国博における日仏美術交流を各々語った。第4セクション「他者の構築と表象」は、味岡京子(日本女子大学)、エリック・ミショー(パリ社会科学高等学院)、天野知香(お茶の水大学)の三氏で構成され、20世紀美術における他者表象の問題をジェンダーとグローバルな視野から探った。以上四つのセクションは、各々の立場から日仏美術史研究のアクチュアルな問題を掘り下げ、今後の展望を開いたと言ってもよい。そして、プログラムの最後は、本学会名誉会長である高階秀爾氏がフランス語と日本語を織り交ぜながら、シンポジウムの内容を総括された。基調講演と各セクションの発表に適宜言及しながら、日仏美術研究の課題を提起されシンポジウムを締めくくられた。学会開催に協力していただいた日仏会館にとっても、ハイフレックス方式のシンポジウムは初めての試みであった。日仏会館ホールでの対面とZoom Webinarによるオンラインを融合することは相当な難事で、日仏同時通訳も付けたためにパソコンだけで10台近く使ったほどである。これだけ大がかりな準備を必要としたので、発表中に小さな技術的問題が生じたことは否定できないが、全体としては滞りなく2日間の日程を終え、美術史および考古学にまたがる研究の方法論や可能性、今後の日仏学術交流の展開をめぐって、活発な議論が交わされた。Zoom Webinarを通したシンポジウムの視聴者は、1日目が136人、2日目が157人となり、盛況の内に終了した。今後の日仏美術研究の課題について議論を重ねることは必要不可欠なので、オンラインで参加される学会員もまた、質疑応答に参加していただきたかったが、時間の関係とオンライン(Zoomウェビナー)での発言の難しさなどがあり、活発な議論とはならなかったが、いくつかの質問はあった。― 579 ―― 579 ―
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