この会議を開催したことによってもたらされたものは何か。数年ぶりの国際シンポジウムを開催して感じたことは、やはり異なる国の研究者が一堂に会して自分の考えを開示し、議論をすることが、いかにお互いの刺戟となり、視野を広げ、新たな展望をもたらすのかということであった。もちろん、対面で招聘すればもっと濃密な交流が成されたとは思うが、その代わり、各セクション内でオンラインによって事前に打ち合わせをし、発表内容を摺り合わせたことは、ある種の国際的な共同作業ともなり、各研究者にとって貴重な体験となったに相違ない。また、シンポジウムを視聴した学会員や美術史研究者にとっても、各発表は興味を惹いていたし(登録制の一般公開を行った)、今後の研究に役立つヒントを得たことであろう。敢えて国際シンポジウムを開催したことに対して、複数の研究者から肯定的に評価する感想をいただけたのは、実のある学術交流が行われた証左であろう。ただし、ハイフレックス方式による開催に関しては課題が残った。今後はより洗練された形で実施できるように検討していきたい。そして、日仏美術学会にとっても、今後の活動を推進する上で、新たな出発点となる節目のイベントになったと言える。単に40周年を記念する意義だけではなく、これから若手研究者が育っていく素地を作ることができたのではないかと考えている。フランス人研究者とのネットワークが構築できたことも重要で、パリの国立美術史研究所や招待発表者とのつながりから、今後の国際共同研究への道が開けることもあり得るであろう。個人の研究者に対しても、学会にとっても、多大なる寄与をもたらしたシンポジウムであったことを確信している。以上のように、限られた条件下ではあったが、日仏の美術史研究者の交流をさらに深めることによって、今後10年間の学会活動の礎石になるような意義あるシンポジウムを開催することができた。この重要な成果は書籍としてまとめ刊行する予定である。最後になるが、本シンポジウムの実現のために、共催者の公益財団法人日仏会館からは学術研究助成を受けた。シンポジウム実行責任者として心より御礼申し上げる次第である。― 580 ―― 580 ―
元のページ ../index.html#595