史資料の調査が欠かせない。こうした近代日本美術史においての重要な役割を果たした作家たち、さらには無名のままに忘れられていった卒業生たちの研究に資するよう資料を整備することを本研究の目標のひとつとした。研究計画と概況本研究は、GACMAの前身である教育資料編纂室に長く在職した故吉田千鶴子氏による研究を引き継ぎ、これまで積極的にはその収集資料を外部には公開してこなかった点については組織的な改善を試み、多くの研究者がGACMA所蔵の資料あるいは情報にアクセス可能となるように、基礎的な整備を行うところからはじめる。そのためには、とりわけ重要となる東京美術学校設立時からの歴史文書について全容を把握し、研究的価値を見出し、そして閲覧や公開がどのような方法において可能であるかを検討する必要がある。本研究はその端緒と位置づけられるもので、長期的な継続性を念頭においているが、本申請にあたっては1年半という期間を限定し、確実な成果を示すことができるよう、計画を立てた。申請時におけるその計画では、1)GACMAが所蔵する歴史的資料類の内容を横断的に検索できるようなアーカイブ化を行い、さらには研究活用が可能な情報をWEBなどによって広く公開していくこと。2)明治後期から昭和前期にかけて東アジア諸地域から留学してきた生徒たちの動向について中国・台湾・韓国の研究者と共同して情報を収集し、東京美術学校を中心とした近代東アジア美術史の再構築。の二つの柱を掲げていた。しかしながら、国際交流を前提とした第二の点については、コロナウィルスによるパンデミックが収束していくことを期待しての計画であったため、残念ながら世界的なパンデミック状況が改善せず、科研費申請も断念せざるをえなかった。近隣諸外国が積極的に進めている自国美術史の研究を後押しすべく、GACMAが中心となって相互的な近代東アジア美術史の再構築が今後望まれるところである。実施報告令和2年度(2020年度)本研究助成のスタートアップに相当する上半期は、科研費申請やサントリー文化財団研究助成などを視野に入れ、GACMAを中心とする共同研究ネットワークの確立を目指した。具体的には、かつて宗主国であった日本の美術教育が統治下の周辺各国にどのように影響したかという従来型の研究視点ではなく、各国の美術史研究の状況を踏まえて双方向的にあるいは円環的に理解を深めていくこと、そうした研究土壌をつ― 582 ―― 582 ―
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