鹿島美術研究 年報第38号別冊(2021)
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は、留学生たちが日本で誰に学んだか、あるいは統治下の官設展で誰が審査員だったかという限られた範囲に留まっている。以上のような海外の研究動向、とくに日本に留学した画家たちへの海外からの熱い眼差しに照らせば、本研究の必然性および喫緊性は明らかであろう。かりにこのままの状況が続けば、近隣諸国がそれぞれに自国の美術史を語ることだけに関心を向け、お互いを知らないままに、自国主義に陥っていく危険性を抱えているとも言えるだろう。そうならないためにも、各地域での美術史現象を東アジアの近代美術の全体像のもとに、俯瞰し総合していく新たな美術史の再構築こそが必要となる。それこそが、今後の近隣諸国間の芸術交流においてゆるぎない礎となるだろう。個別研究を進めていくことはもちろんのこと重要だが、それと同時に、日本に研究の基盤を構築することが何よりも求められている。まずは、東美校に留学した学生たちに関する記録文書の情報共有が重要であろう。さらに、国内外の研究成果を網羅的に収集し、それを共有し活用できるように、少なくとも目録やサマリーに関しては多言語化していくことが未来に向けての重要課題であろう。そのためには、一人の研究者の能力や活動を超えて、組織だった体制、しかも国際的共同研究体制が必要となる。本研究助成によって、東京美術学校卒業生、在校生の悉皆調査がなされ、当然ながら在籍した留学生たちについてもweb公開を通じて各国で研究できる基礎を固めることができた。明治期の分が完了するという基盤が出来たので、これを引き続き、令和4年度中には美校すべての在籍者に関するデータベースを公開する予定である。― 585 ―― 585 ―

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