Ⅰ.「美術に関する調査研究の助成」研究報告① 近世禅林肖像画の基礎的研究─頂相を中心に─研 究 者:花園大学歴史博物館 研究員 志 水 一 行はじめに禅宗美術を概観すると、その特徴のひとつとして、肖像画の優品が数多く遺されていることがあげられる。日本における禅宗の展開を振り返ると、禅宗は時の有力者を迎えて寺勢の発展を遂げてきた。したがって、禅宗寺院にはその開創と発展を支えた開基や外護者の肖像画が数多く伝来している。とりわけ、戦国期から近世初頭における武将・大名やその夫人等の肖像画は目を瞠るものがある。また、師資相承を重んじる禅宗において最も重要とされる肖像画に、祖師の姿を描いた頂相がある。その数は一般の肖像画を上回る。これらの頂相のなかには、肖像画と同様、当時の画壇において名を馳せた絵師が描いているものもあることから、肖像画研究の分野でも重要視されている。しかし、これまでに紹介されてきた頂相、あるいは研究対象とされてきた頂相の多くは、中世から近世初頭までに制作されたものであり、それ以降に制作された頂相が取りあげられる機会は少ない。その点、近世における頂相の存在は等閑視されている状況にあるようにおもわれる。禅宗寺院に伝来する頂相は近世に制作された作例が圧倒的に多く、近世禅林をめぐる美術を考える上でも、当該期における頂相の研究が重要な課題のひとつに位置付けられる。近年、徳応や貞綱(徳栄)等の近世絵仏師による頂相が紹介され注目を集めている。しかし、かれらのほかにも数多くの頂相作例を遺している絵師や、頂相画家として工房を構えた可能性を有する絵師の存在を確認できる。とりわけ注目すべきは、頂相制作が形式化の一途を辿っていた江戸期において、高い画技をうかがえる作例が多い点である。本研究では江戸時代を活躍期とし、禅宗寺院において数点の頂相作例が確認されている水谷憬南および中天景団をはじめとする絵師に焦点を当てた(注1)。全国的に新出作品が見出される可能性が高い絵師であり、禅宗寺院を中心に未紹介作例の現存が報告されているほか、作画活動の様子を垣間見ることができる文献も知られてい― 1 ―― 1 ―1.2021年度助成
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