⑬ 日本美術における「美男画」の系譜研 究 者:島根県立石見美術館 専門学芸員 川 西 由 里はじめに 本研究の目的日本美術には「美人画(美人図)」とよばれるジャンルが存在し、「美しい人=女性」を主題とした絵画が多数描かれてきた。近世初期の遊女図にはじまり、錦絵の普及によって広く愛好されるようになった美人画は、明治以降は雑誌やポスターなどの大衆メディアを飾ると同時に、展覧会でも花形となった。戦後も人気は衰えず、現在も多くの美人画展が開かれ、現代作家を「美人画」という切り口で紹介する書籍や雑誌も引き続き刊行されている。一方、男性像に目を向けると、各時代の男性観を反映した作品は存在するものの、見た目の好ましい男性像を一括りにする呼称は見あたらない。展覧会としては武者絵や役者絵の特集などの例があるが、美人画展に比べれば圧倒的に少ない。そもそも性別を示す文字を含まない「美人画」という言葉が女性像を指すという慣習が、男女間の不均衡を象徴している。この不均衡について問題提起をするため、筆者を含む島根県立石見美術館と埼玉県立近代美術館のチームは「美男におわす」と題した展覧会(注1)を企画した。ここでは理想化された容姿の男性像を仮に「美男画」と呼び、江戸時代の浮世絵から近代絵画、現代美術、そしてイラスト、マンガ、アニメまでを対象として作例を集め、一堂に会することで見えてくるものを探った。本稿ではまず「美男におわす」展(以下、「本展」)の内容に沿って、日本で受容されてきた「美男」像の特徴について考察する。続いて本展に参加した現代作家の活動から「美男画」の現状を明らかにし、最後に日本美術史における「美男」表現の変遷を概観して、男女間の不均衡の要因について考える。なお、このテーマには性的指向やルッキズムなど様々な問題が関係するが、本研究では男性像を見る、描くという行為について、女性像の場合と対比しながら考察を行うことを目的とする。1 「美男におわす」展の概要と出品作の傾向本展では「美男画」として集めた作品を4つのテーマに分類し、最後に現代の作家を紹介する章を加えた5章構成をとった。以下に各章の概要と出品作の特徴を述べる。― 131 ―― 131 ―
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