鹿島美術研究様 年報第39号別冊(2022)
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ラ」の商業的な成功をよび、女性が男性像を鑑賞する機会を広げることにつながった。第5章 あなたの美男、わたしの美男最終章では、近年の動向をふまえて今後の展望を示すため、主に2000年以降の絵画、写真、彫刻、版画、そしてマンガによる多様な男性像を紹介した。第4章までの作品の作者は、漫画家の山岸凉子(『日出処天子』1980~84年)とイラストレーターの乃希(武将のキャラクターイラスト、2021年)を除いて全て男性だった。このことが示すとおり、女性作家が公の場で男性像を発表する機会は長い間、皆無に等しかった。女性作家による魅惑的な美少年、美青年の表現は、美術に先立って少女マンガの世界に現れた。1970年代、主人公の少女が憧れる相手ではなく、読者をダイレクトに惹きつける少年たちの愛や苦悩を描いたマンガが、女性作家によって生み出された。本展では代表的な例として竹宮惠子『風と木の詩』(1976年連載開始)を取り上げた。以降、時代を牽引するマンガが続々と誕生し、2004年には、女性の将軍のために美しい男たちが大奥に集められるという男女逆転の時代劇、よしながふみ『大奥』の連載が始まった。1990年代、村上隆や会田誠らがアートの世界にポップカルチャーの「美少女」イメージを持ち込んで注目されたが、「美少年」、「美青年」の登場にはまだ時を要した。日本画家の木村了子が2005年に男性像を発表し始めた際には、男を描いた絵は売れないと言われたという。2020年代に至ってようやく、女性像に比べると圧倒的に数が少ないものの、作家の性別を問わず様々な男性像が表現され、評価もされ始めている。2 現代作家が示す「美男画」をめぐる問題本展は、「ジェンダー平等」という概念が注目される社会情勢に応じた企画として注目され、第1会場の埼玉県立近代美術館の開幕に合わせたプレスカンファレンスには29社が参集し、出品作家も多数出席した。作家のひとり市川真也はその時のことを振り返り、グループ展ではライバル意識が起こりがちなところ、本展では作家どうしが「男性像というテーマで描き続けてきてよかった」と喜び合っていたのが印象的だったと語る。このことからも、男性を美的な対象として描く行為への周囲からの抵抗は、過去のものではないことが分かる。ここで「男性を描くこと」の現状を確認し、これに取り組む現代作家の作品の意義― 134 ―― 134 ―

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