鹿島美術研究様 年報第39号別冊(2022)
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を問うため、4人の出品作家の活動について紹介する(注6)。【1】木村 了子木村了子(1971~)は、「イケメン(美しい男性)」をモチーフに制作を続ける日本画家である。「女性目線のエロス」を標榜して性愛の対象としての男性を描くため、時に性的な描写も伴うが、その作風は明るく開放的で、ユーモアもただよう〔図5〕。日本美術史上の諸作品を引用することも多い木村の男性像には、伝統的な美人画が持つ要素が取り込まれている。例えば、《夢のハワイ ─Aloha ʻOe Ukulele》〔図6〕における、美貌の人物とファッショナブルな衣装やアイテム、美しい自然、優雅な趣味(音楽)の組み合わせなどは、多くの美人画と共通する。元々は女性像を制作していた木村が描く対象を男性に替えたのは、男性を主体とするエロティシズム表現が当然とされる状況に疑問を感じたためだという(注7)。しかし男性像を発表し始めた際には、様々な否定的な反応を受けることになる。2021年に本展への出品を依頼した際、木村からは「自分が生きている間に美術館でこのような展覧会が開催されると思っていなかった」という答えが返ってきた。美術の主題における男女の不均衡を、身を持って経験してきた作家ならではの言葉である。なお木村は2022年9月、自らのキュレーションによって現代作家13名による男性ヌードの展覧会「NUDE礼賛!おとこのからだ」を開催し、1,030人の観客を集めた(注8)。「美男におわす」展の問題提起を受け、男性を描き、鑑賞し、語る場が広がりつつある成果ととらえたい。【2】市川 真也市川真也(1987~)は、「男性をモチーフとした『美人画』は成立するか」、という主題を掲げて制作をしている。アクリル絵具の明るい色彩で描かれるのは、カジュアルなファッションでくつろぐ青年たちの日常だ〔図7〕。上半身または頭部をクローズアップした構図は、描かれた人物と見る者との近さ、親しさを演出する。展示の際には、複数の絵を組み合わせて壁に配列するインスタレーションの形式をとる〔図8〕。これによって、髪型も服装も様々な、名前は分からないが街に出れば会えそうな、フレンドリーな青年たちに囲まれた空間が生まれる。市川もまた、制作の主題を男性像に定めていることについて、当初から否定的な反応を受けてきたという。彼が表現する穏やかさ、親しみやすさ、普遍性は、美人画が持つ特徴と合致する。にもかかわらず描かれているのが男性だというだけで居心地の― 135 ―― 135 ―

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