ので、この教会はジョルジョ・ヴァザーリが監督・設計した宮殿、施療院と共にピサに建てられた。その教会に置かれた板絵には、ブロンヅィーノによってわれらが主イエス・キリストのご降誕が描かれた。二つの板絵には数多くの技芸、入念さ、ディセーニョ、創意、そして彩色の卓越した甘美さがあり、それはこれ以上できないほどである。当然ながら、騎士たちの教団を設立し、支援する偉大な君主によって建設された教会に置くためには、これ以上のものはなかった。(注12)ヴァザーリは騎士団およびその関連施設の建設事業の重要性を強調すると同時に、その場に設置するにふさわしい祭壇画の出来を称賛している。本作は、完成直後からフィレンツェの君主が深く関わった事業にふさわしい作品、つまりフィレンツェを代表する作品と見なされていたのである。この作品に関する同時代の高い評価は、20世紀の研究史におけるどちらかといえば低い評価とは一致しない。この不一致からは、極端に形式的な身振りおよび極度に形式化した空間構成がもたらす一種の混沌とした雰囲気が、同時代においては積極的な価値を持っていた可能性が浮かび上がる。あまりに形式化したともいえる身振りの多様性は、むしろ当時のフィレンツェ美術の歴史的遺産および最先端の流行を強く意識した借用および再提示を意図したものであり、そうした画家の試みが同時代において積極的な価値を生んだ要因の一つであったと考えられる。2.聖家族の着想源本章では、《キリストの降誕》における聖家族の身振りおよび空間構成に着目し、その視覚的な源泉を明らかにする。これにより、同時代の中心的な手本だけでなく、それより約1世紀前の歴史的遺産にも注目し再解釈することで、フィレンツェ美術における革新性と伝統を踏襲する正統性を提示しようとした画家の意図を指摘する。本作の聖家族は、上からヨセフ、マリア、キリストと縦に並んだ構成に特徴がある〔図2〕。ヨセフは観衆の一人と会話をするように顔を右後方へ向け、左手で柵のようなものを掴んで体を支え、右腕はまっすぐ下方へ伸ばし、人差し指を伸ばしてキリストを指し示している。マリアは下半身が青いマントで覆われているため、その下がどのような身振りをとっているか判然としない。しかしマントのひだの形からマリアの右ひざが画面向かって右方向へ突き出されているように見えるため、同じ方向へ左ひざも向けていると推測される。そして左へ捻った上半身の右側で両手を合わせ、顔を― 156 ―― 156 ―
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