比較すると細部も含め大まかに描かれていることは否めない。№50の体色は黒色だが微妙なグラデーションにすることで立体感を表している。突起物の先端は不透明な白色で表現している。№51の体色は橙色のグラデーションであり、中央部は褐色となっている。褐色部分は外套膜から見える内臓の色である。細部も含め大まかに描かれている。№52の体色は青色であり細かな斑点が点描で描かれている。縁部分は不透明な白色、橙色、濃青色で表現されているが、突起部分は大まかに描かれている。№56の体色は褐色である。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ (Angas, 1864)には鮮やかな青色の斑点があるのだが、明るい青色に白色をのせることにより鮮やかさを表現することに成功している。№57の体色は淡黄色であり、細かな褐色の斑点が点描で描かれている。爪状突起が不透明な白色で描かれ、全体的な輪郭線は褐色を使用している。№58の体色は白色であり、大きな橙色の点と小さな橙色の斑点が密に描かれ凹凸を表現している。突起物は白色に暗褐色の斑点があるが立体感は損なわれていない。№59の体色は赤紫色であり濃淡によって立体感を表現している。細かな斑点を描くことでさらに凹凸が強調され、橙色の突起部分は丸みを帯びている。輪郭線を協調しない描き方をしている。おわりにポール・バーチュのノートに付された伊藤の図をみていくと、初期は描き方に戸惑いのような線が見られた。また鉛筆による下書き線が残されており、慎重に書き進めていた様子も見られた。伊藤によるメモ書きも多く、清書を想定した備忘録のような役割を果たしていたと考える。推測ではあるが、清書する際の指示も含まれていたのではないだろうか。輪郭線を見ていくとそれぞれの体色に合わせた色を使用し、細い線にさらに濃淡や強弱をつけることで立体的に見せようとしていた。後半になると輪郭線を描かないことで無脊椎動物の丸みや質感を表現する手法もみられた。本研究では、伊藤によるノートの図版と清書された図版との差異について検討するところまでは至らなかった。手書きメモの内容やスケッチの情報をどこまで取り入れながら清書を作成したのか。また新たに描き加えた情報等があるのか。清書することによって近代博物図の絵画としての意味付けがどのように変容していったのかさらに探っていきたい。― 190 ―― 190 ―
元のページ ../index.html#199