用はまさに、アカデミックな歴史画やモデルを前にしたデッサンの修練では表現しきれないような、対象がもつ生き生きとした性質を捉えようとするファルギエールの態度を示している。そして、「動勢」の概念については彫刻のコンテクストにおいて、とりわけロダンを中心に形成される近代彫刻の言説において重要な概念となっていく(注22)。いずれにせよ、これまでに挙げてきた引用からは、古代と自然をめぐる2つの対照的なアプローチが示されている。カノーヴァ、プラディエの流れに対して、ファルギエールは、リュード、そしてカルポーのなかに自らを位置づける(注23)。古典に盲目的に従うのではなく、「自然」、すなわち目の前にある生き生きとした現実を模倣することによって、「生」や「動勢」を表現する。これによって、カルポーら先達の芸術家たちから続く系譜のなかに自らを置き、その芸術的立場を明確なものとしようとしたのである。しかし、こういった言葉のうえで表明される態度とは異なり、ファルギエールは実際の制作の場においては、過去の造形から数多くの引用を行っている。そこにおいてこそ、彼の古典と現代とのあいだの微妙なバランス関係が窺えるのであり、以下その様相を具体的に確認していきたい。2.引用と再構築これまでみてきたように、ファルギエールはアカデミックな伝統からの影響を否定し、「自然」を追い求めているのだと、自らの立場を表明していた。しかし、彼が実際に制作した作品は、明らかに過去の芸術を意識したものである。伝統的な図像の先例は、直接的に模倣されるわけではなく、むしろ彼のなかにいったんは取り込まれたのちに、より自由に翻案されていく。古典と現代性のあいだを揺れ動くファルギエールのアンヴィバレントな態度は、ローマ賞受賞後のヴィラ・メディチ滞在の初期から現れている。私は一年目の課題に取り組み始めました。それは二人の少年が輪回しをして遊ぶ情景を表した浮彫です。動勢と生を最もよく表現することだけを求めていました。シュネッツ氏は様式(style)[の重要性]について語り、あまり私の作品の出来栄えに満足しているようではありませんでした。しかし彼は私に制作を続けさせてくれました、というのもこの作品から、裸体をもとにした入念な仕事をとりわけ見てとったからです(注24)。― 310 ―― 310 ―
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