鹿島美術研究様 年報第39号別冊(2022)
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㉝ 公家注文による原在中・在明作例の研究─原家文書翻刻から判明する作品の伝来について─研 究 者:京都府京都文化博物館 学芸員  有 賀   茜1 研究の目的原在中を初代とする原派については、京都御所障壁画制作に関する研究の進展にともない、江戸時代後期の京都画壇において果たした役割の重要性が理解されるようになっている(注1)。しかし原派に特化した展覧会は子孫が開催したものを除くと、昭和18年に恩賜京都博物館が開催した「原在中畫蹟展覧會」(注2)を筆頭とし、昭和51年、京都府立総合資料館での「京都画派の名家 原在中とその流派」(注3)のあとは平成13年、敦賀市立博物館での「京都画壇 原派の展開」(注4)と間隔がひらいており、そのためもあってか、明確な基準作については研究者の中でも統一された見解を得るに至っていない。そこで今後の原派研究の基礎となることを期待し、江戸時代以降に原家が請け負った注文記録を含む「原家文書」(注5)の翻刻を行った。本文書群は数十年前まで原派の子孫が継承してきた史料で、主に在明以降代々の頭主が書き継いできた。すでに研究者の間では知られているものだが(注6)、数量が膨大でもあり、また実際の作品と結びつけて検討されることは少なかった。調査は京都府の文化財保護課職員、京都府立京都学・歴彩館職員、京都府立京都文化博物館学芸員などが連携して行い、資料に登場する作品のうちまずは京都府下に伝存するものを同定しようとする試みである。コロナ禍において思うように作品調査が進められない時期もあったものの、オンラインサービスを活用したこと、同じ自治体に属する職員が互いに補佐しあうことにより、継続的な調査研究が可能になったことは、かえって今後の文化財調査に向けて新しい視野が拓けたように思う。2 『臥游集』の検討─國學院大學博物館蔵「高倉家調進文様控」との関連について「原家文書」は100を超える史料群であり、大部分が原家にかかわる文書だが、一部に下絵なども含まれている。このうちまず着目したのは、『臥游集』である。全4冊で、原派二代目の在明と、三代目の在照によって書かれたとみられる。天保年間から文久年間までに原家に寄せられた絵事注文の台帳で、発注の年月日、画題、彩色の有無や濃さ、法量、員数といった作品情報のほかに、完成した年月日や注文主、さらには注文主の遣わした人物名、紹介者の名前なども仔細に記録されている。これらの記述が継続的に遺されている例は近世の絵師においても稀で、原派の基準作を探るうえで― 359 ―― 359 ―

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