注⑴ 江口恒明「禁裏御用と絵師の「由緒」・「伝統」」『天皇の美術史5 朝廷権威の復興と京都画壇江戸時代後期』(吉川弘文館発行、平成29年)では、宮中での原家の位置や、宮中儀礼の描写について詳細に考究されている。⑵ 恩賜京都博物館『原在中畫蹟展覧會目録』昭和18年⑶ 京都府立総合資料館友の会編集『原在中とその流派展』京都府立総合資料館発行、昭和51年⑷ 敦賀市立博物館編集『特別展 京都画壇 原派の展開』敦賀市立博物館発行、平成13年めぐって、在明の力量がどれほど信頼されていたかが知られるのである。5 今後の研究課題本研究を開始した当初、コロナ禍は終息に向かうものかと思われたが、調査が以前のように行える環境とまでは言えず、実作品と対応させて検討したいという希望はなかなか叶えることができなかった。しかしそのような中でも快くご対応くださったご所蔵者や図書館、大学などの各機関にまずは深く感謝を申し上げたい。引き続き「原家文書」の調査研究を行うことは、美術史だけでなく様々な分野の研究にとって有益と考える。本稿で挙げた服飾の問題などはその一端に過ぎず、今後より幅広くこれらの翻刻が役に立てば幸いである。そのため、史料の一部抜粋を避け、全文翻刻とその発表を行っている一方で「原家文書」全体の広い世界にはまだ目を向けきれていない点があり、今後の課題としたい。本稿では古代の宝物や古画を写し、有職故実に通じた在明の力が、高倉家や鷹司家といった堂上公家の間でいかに重宝されたかという一端を紹介した。また『臥游集』に登場する作品の中で、伝存する作例とすぐに一致する例はむしろ少なく、落款や共箱の添わない作例も多い。しかし今回の「高倉家調進控」のように、まだ知られていない在中、在明、そして以降の原派作例は今後も多く見出すことが可能である。現在具体的に複数の作品について在中・在明作例の可能性を検討しており、引き続き研究を進めていきたい。追記本稿脱稿後、北野天満宮において在明の「新写」とみられる衝立が発見された。これは原則として現状模写のかたちをとるが、在明が楽器などの一部を原本から変更していることが明らかとなった。詳細は別稿にゆずるが、本助成研究の中でも大きな成果の一つとして書き添えておきたい。― 365 ―― 365 ―
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