100cm以上の大型作品も他室より多く配されたことを確認できる。前半では、ギリシア神話を主題とする同作品やフランドランによる収穫祭の光景、ピカソの少女像を間にはさみつつ、おもにタヒチを描いたゴーギャンの作品がまとめて取り上げられた。そのなかでも《マナオ・トゥパパウ(死霊が見ている)》(exh. no. 42)〔図5〕は、同時代評に画像が掲載され、マッカーシーの上述の回顧記事でも大きく挿図にされるなど、同展の典型的な作例として広く認識された作品である。中盤では、セザンヌによるプロヴァンスの風景画〔図7〕とともに、シニャック、スーラ、クロスの海景画によって新印象派の制作手法が示された。後半には、濃厚な黄色と藍色がかった青のコントラストがきわだつファン・ゴッホならではの油彩画が集中的に並べられた。《カラスのいる麦畑》(exh. no. 71)〔図8〕などの代表作に見られる力強く勢いのある筆致は論議を呼び、同様の筆遣いで対象の特性を強調して描いた人物像は激しい非難を浴びた。揶揄された回数の多さから、《矢車草をくわえた若い男性》(exh. no. 67)〔図6〕は同展で最も批判された作品と見なしうる。ファン・ゴッホに対する論調は総じて厳しく、宗教的な主題の絵画や肖像画も酷評された(注24)。前衛の代表と位置づけられたマティスは、同時代絵画の紹介にあてられた「中央展示室」から登場する。この第3室に展示された48点のうち四分の一は「先駆者」ゴーギャンの作品だが、同室における存命の画家の割合は、全16名中ゴーギャンをのぞいた15名と、他室に比べて著しく高い。特定できた27点の画像を参照すると、マティスの南仏風景を筆頭に、セリュジエ、エルバン、マルケ〔図9〕、ヴラマンクなど、大展示室の作品群よりも形式の抽象度が増した、彩度の高い色遣いの作品が目立つ。ゴーギャンの《ブルターニュの農民》(exh. no. 89)〔図10〕やヴァロットンの《入浴する女性たち》(exh. no. 102)〔図11〕など、今回あらたに同定できた作品も多く含まれる。この中央展示室のなかで、マティスの《緑色の眼の娘》(exh. no. 111)〔図12〕は、上述のファン・ゴッホに次いで批判を集めた。同作品に関してフライは次のように述べる。「私の目には、それは構想において類なく完璧であり、同時に、色彩調和の斬新さ、率直さ、大胆さにおいて、独創的で完全に成功しているように見える。[中略]絵画における彫塑的感情(plastic feeling)が光と影に依存しなくとも、線と色彩によって確実に喚起されうることは、まさしくマティスの絵画から推測されるであろう」(注25)。― 30 ―― 30 ―
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